シルバー先輩は、僕のことが大好きだ。
……大袈裟に言ってるとかじゃなくて、本当にそうなんだ。
本当なんでこの人僕みたいなやつのことこんな好きなんだろうって、そう思うくらいに好きすぎるんだ。
……いや、その。まだ、正式に告白とかしてさ、恋人として付き合ったりしてるわけじゃないんだけど。
かなりその、イイ感じっていうか……。分かるだろ!? なんていうか、恋人一歩手前、みたいな関係で……。
な、なんでそう思うんだ、って、ええと、それは、その。じゃ、じゃあ……ちょっとだけ、聞いてもらっていいか?
シルバー先輩が、僕のことをやけに大切にしてくれるようになったのは、いつからなのか、正確には分からない。
ただ、僕が初めて「ん? あれ?」って思い始めたのは、星送りの祭りのすぐ後くらいだ。
先輩は星送りの舞が終わったあと、僕のところに来てくれてさ。それで、舞の出来を褒めてくれたんだ。
「本当に、綺麗だった」って。
僕の頬に手を添えながら、じって目を見つめて、あんまり噛みしめるように言うもんだから、相当、オルトの作った流星群の綺麗さに感動したんだなってそのときは思ってたんだけど……。……今思えば、先輩は、僕自身のことを見ていてくれていたのかもしれない、なんて。か、考えすぎだよな、はは。
それからだ。それから、先輩とはよく話すようになった。廊下や階段ですれ違えば挨拶と、ちょっとした世間話くらいはするし、食堂でもたまに一緒にご飯を食べたり、運動場で一緒に走って身体を鍛えたり、一緒にペットボトル飲んで休憩したりした。
そうしていく中で、だんだんと、「あれ? これってひょっとして僕、先輩から特別な風に思われてないか?」なんて思う機会が増えた。
だって、シルバー先輩、食堂で僕がランチ食べてると、いつの間にかさらっと隣にいて、「今日もオムライスを食べてるのか? 本当に好きなんだな」って笑ってたりするし。運動場でランニングしてると、ペースを合わせて走ってくれたりするし。先に行ってもいいんですよ、って言ったら、「お前は、走っているとき、隣に誰かがいるのが好きだと言っていただろう」って、言ってくれたし……。あとは、僕が街に遊びに行こうかな、なんてダチと話してると、「俺も用事がある。一緒していいか?」なんて、声かけられて一緒に街へ遊びに行くことになったり、その出かけた先では、今日のお礼だなんて言って、お土産を買ってもらえたりなんかして……。
……ひょっとして僕、単純か? もしかして今、「そんなことくらいで?」って単純だと思われてるか?
違うんだ! 違うんだよ! 聞いてくれ! ほんとに、言葉にしたら単純なことなんだけど、纏う雰囲気っていうか、なんか、視線みたいなものが、すごい暖かくて柔らかいっていうか、こそばゆくて恥ずかしくなる感じのやつを向けられてるっていうか……。
なんて言ったらいいのか分からないけど、シルバー先輩が、とにかく、僕を好きって感じの態度を、隠してくれないんだ!
別に、嫌なわけじゃない。嫌なわけじゃないけど、照れくさくて、恥ずかしいから、ほどほどにしてほしい気持ちもあって……。
ええと、だから、何を言いたいのかっていうと、その、だな。嫌じゃないんだ。そういうの全部、嫌じゃないんだよな。むしろ嬉しくて……。
だとしたら……えっと。これってさ、僕も先輩のこと、好き、なんだよな……?
だ、だったら、言わなきゃ、だよな。先輩に、僕シルバー先輩のこと好きです、って。
ああああ、でもこれがただの僕の勘違いで、先輩は誰にでも同じようにしてたらって思うと、ワケわかんなくなって変な声あげちまいそうになる!
どうしたらいい!? 僕、どうしたらいいんだ!?
「どうした? 頭を抱えて。悩みでもあるのか?」
「し、シルバー先輩!?」
背後から突然現れるシルバー先輩に、思わず飛び退く。な、なんでいつも話しかけるとき、後ろからささやきかけるんだ? 耳に息がかかってドキドキするから、やめてほしいんだが!
「悩み、悩みっていうか、その、えっと……」
シルバー先輩のことで悩んでます、とか、まさか本人には言えない、よな。
「悩みがあるのなら、言ってほしい。お前の力になりたい」
だけど、シルバー先輩に向けられるあまりにも真剣な眼差しに、僕は観念するしかなくなる。
「えっと……僕が何を言っても、驚いたり、引いたり、笑ったりしないですか……?」
「しない」
「じゃ、じゃあ、その、えっと。質問、なんですけど」
「ああ」
ひゅ、と怯える呼吸を整えて、意を決してシルバー先輩に尋ねる。
「し、シルバー先輩って、僕のこと好き、だったりします……?」
「ああ、好きだ」
躊躇う間もなく肯定の返事が返ってくる。い、いや、そういうことじゃなくて。
「えっと。その、後輩として、とか、仲の良い学友とか、そういうのじゃなくて……恋、とか、特別に好き、とか……だったりするか、って話、なんですけど」
言っていてだんだん恥ずかしくなってきた。やっぱり、こんなの僕の勘違いだったのかもしれない。ヤバイ僕今めちゃくちゃ変なやつだ!!
「す、すいません! 変なこと言っちゃって! やっぱり違いますよね、僕なんか、ちょっと勘違いしてたかも――」
言いかけたとき、気が付けばぎゅっと抱きしめられていた。
「……え?」
「好きだ。お前が一番。後輩としても好きだし、特別な恋の相手としても、好きだ」
シルバー先輩の腕が、僕をぎゅっと抱きしめる。身体から伝わるシルバー先輩の体温と、清潔な石鹸の香りが、鼻を掠めてドキドキしていく。
「せ、せんぱい……」
「デュース」
「わっ」
先輩は、一度身体を離してから、僕を改めて抱き込む。そして、僕の手を取ると、自分の胸元に持っていかせた。
「分かるだろうか。今、お前にこうして触れ、想いを伝えることで、俺の鼓動が逸っている」
「……は、はい。分かります……」
手のひらの先から伝わってくるのは、ドキドキと早くなってるシルバー先輩の鼓動そのもので。
「好きだ、デュース。お前の勘違いではない。この気持ちをお前に知ってほしくて、ずっと伝われと念じていた。だから、信じてほしい」
「……うあ、はい。わかり、ました……」
分かったから、腕の中から解放してほしい、と切に願う。だって、だっていきなりこんなの、さっきからすっごく、ドキドキしてしょうがない。ドキドキしすぎて僕、死んじゃいそうだ。
「でも、なんで僕なんか……」
シルバー先輩の腕の中から、そっと逃げようとしながら尋ねると、シルバー先輩は腕を緩めてくれながら答えた。
「……あまりにも、美しかった」
「え?」
「流星の元、努力の果てに舞うお前が、とても綺麗だった。目を奪われた。あの夜以来、ずっと、寝ても覚めてもお前のことばかり考えていて、こんなにも俺の心を打つものがこの世にはあったのかと、そう感じた」
「つ、つまり、一目惚れみたいな感じ、ってこと、ですか……?」
「初対面ではないから、一目惚れというのかは分からないが……少なくとも、見惚れてしまったのは事実だ」
そんなにいいもんじゃなかったと思いますけど、と照れくさくなっていると、シルバー先輩は続けた。
「お前がどう感じていようと、俺がお前を綺麗だと思い、大切にしたいと思ったのは俺にとっての変わらない事実だ。だから、お前の傍にいて、出来る限りの手助けをしようと務めた」
「そ、そうだったんですね」
「それで、だ」
シルバー先輩は、僕の手をぎゅっと握る。強く掴まれた手が、わずかな緊張で震え、少し汗で湿っているのが分かった。
「お前は、どうだろうか」
真剣だ。先輩の頬は、わずかに赤く染まっている。潤んで揺れるまっすぐな瞳が、僕のことをじっと見つめている。
「僕、は……」
僕は。シルバー先輩のことを、どう思っているか。そんなの、もうとっくの昔に、決まっていた。
『本当に、綺麗だった』
流れ星の空を映したとびきり綺麗なオーロラ色の瞳が、僕を映してそう呟いた。あのときから。本当はきっと、僕だって、ずっと。
だから、言うんだ。ハッキリと。余計な言葉はいらない。先輩の目を見つめて、真面目な、真面目すぎる想いには、真剣に答えねえと。じゃねえと、フェアじゃないだろ。だって先輩は……シルバー先輩は、めちゃくちゃまっすぐに、真正面から気持ちをぶつけてきてくれたんだから。
「好きです。シルバー先輩のこと、僕も、大好きです」
きっと、僕の頬はシルバー先輩以上に真っ赤だ! 声も震えたし、見てられない顔をしてる。それでも、伝えたかった。ちゃんと。
「……」
シルバー先輩が、小さく息を呑む音が聞こえた。それからすぐに、僕はまたシルバー先輩の腕の中に閉じ込められた。
「せ、先輩?」
「嬉しい、デュース」
抱きしめられる腕の力が、ぎゅうと強くて、いつも凛とした先輩の声がなんだか弱々しく震えている気がしたから、泣いているのかと思った。
「……ひょっとして、泣いてます?」
「泣いていない。一世一代の、男としての告白に、涙を流していては恰好つかないだろう」
「はは……」
先輩も恰好とか気にすることあるんだな。そう思うとなんだか、いつも憧れてた恰好いい先輩が、可愛く思えてきた気がした。
「だが……それでも、涙を流してしまいそうなくらいには、今、とても、嬉しく感じている。好きだ……好きだ、デュース。ずっと、ずっと好きだった」
本当に嬉しそうに、心の奥から噛みしめるように言うから、僕もつい、素直になれてしまう。恥ずかしくて、照れくさいけど。それでも、この人になら、って。
「は、はい。僕も、好き……です。シルバー先輩」
「……ん」
シルバー先輩は、今までに見たことがないくらい優しいほほ笑みを浮かべると、僕の頬を、とても愛しくて大切なもののように指先で撫でた。
それから、僕に向けて膝をつき、僕の手を取る。
「先輩?」
「……改めて、誓わせてほしい。俺は、既に在る主君に向けて忠誠を誓った身だ。だから、お前のことを、いつでも一番に扱ってやることは、難しいこともあるかもしれない。それでも、俺は、俺の出来る限りのすべてを尽くして、お前の憂いや不安を払っていきたい。病めるとき、健やかなるとき。貧しきとき、富めるとき。いついつでも、これより先、お前の傍にいたい。どうか、俺という存在をお前の隣に置くことを、許してほしい。ここに、俺の想いと決意を誓うから」
そう言って、シルバー先輩は僕の左手の薬指にそっとくちづけた。
「な、なんか、プロポーズみたいですね……」
「……俺としては、それくらいのつもりだ」
少し照れくさそうに笑うシルバー先輩に、僕は、くちづけられた手をぎゅっと握って、それから、シルバー先輩に、お返しをする。
「僕も、……その。これからもっと、シルバー先輩と一緒にいたい、です。だから」
ちゅ、とシルバー先輩の頬にキスをする。シルバー先輩は、ふっと笑って、それから、僕の頬に手を添え、そっと唇にキスをした。
「これからもよろしく、デュース」
「へへ……こちらこそ」
なんだか照れくさくてむずがゆくなる関係が、これから先も、ずっと続いていくような予感がしていた。
*おしまい
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