*脳筋探偵シルバー×助手デュースのパロディ作品です。
*前作『脳筋探偵シルバーの事件簿:ファイル02「探偵助手デュース・スペード追跡事件」』までを読んでないと意味が分かりません。
*今回はくどくどした設定説明がひたすら続く回なので、あまり面白くないかもしれません。すいません。
*今さらですがこのシリーズ、シルバーがデュースを好きすぎてキャラ崩壊している気がします。大丈夫なのかこれは?
*他にもおかしなことになっているキャラがいるのでは????? 呼び名とか関係性が変わったりしています。
*いろんな設定が過剰に捏造されています。どこかでついていけなくなっても貴方の責任ではありません。
*相変わらず、何かを考えて読んではいけません。何も考えずに読んでください。考えたら負けです。なんでも許せる人向け。
以上大丈夫な方はスクロール↓
今朝も探偵事務所で朝からデュースのことを膝の上に乗せて愛でつつ依頼を待っていたら、事件は起きた。
「おはよう、シルバー、デュース。今は大丈夫だよね? うん、大丈夫そうだね」
「あ、貴方がた、朝から何をされてるんですっ!? 破廉恥ですよ!!」
ノックされて事務所のドアが開き、ふたりの男が俺たちを訪ねてきた。
「リドル、アズール」
「お、おふたりともおはようございますっ!!」
デュースは慌てて、照れながら俺の膝から降り、ふたりを出迎えようと挨拶をする。
「ふっ。今日も朝からデュースは可愛い。いい朝だな、おはよう、リドル、アズール」
「シームレスに惚気からボクらへの挨拶に移行しないでくれるかな? おはようシルバー」
「シルバーさん! 朝からイチャつくなんて、破廉恥この上ないですよ! 自重されてはいかがか!!」
「そう羨むな、アズール。俺たちのモーニングルーティンだ、自重はしない、絶対にだ」
「う、羨んでいませんっ!! ……本当に、少しも羨んでいないからなっ!!」
ふたりを来客用のソファに通し、デュースがティーカップに淹れた紅茶とコーヒーを差し出す。
「それで、本題はなんだ、ふたりとも」
自分用のコーヒーを啜りつつ、尋ねると。ふたりはそれぞれに答え始めた。
「実はボクたちは、この度、このベイカー街の景色をもう少しまともな風景にしてやろうと思っていてね。それで、まずは比較的建設の自由が効きやすい横断商店街から手を付けることに決めたんだ」
「とはいえ、ですよ。僕たちはふたりとも、まだこの街に越してきたばかりで。街を歩こうとしても、いつの間にかパン屋の群れに迷い込んでしまう。と、いうわけで、です。道案内が得意だと仰るおふたりに、協力のほどを仰ごうかと思いまして」
「そういうことなら、かまわない。道案内の依頼だな? 任せてくれ」
「ええ。この歳にもなって迷子になりやすいというのは、少しばかり恥ずかしい気もしますが……」
そう告げるアズールに、恥じることはない、と俺は告げる。
「何故なら、この街で迷子になるのはお前たちだけじゃないからだ」
「どういうことです?」
「説明しよう」
そうして俺は、この街のことを改めてアズールたちに説明した。
「この街には、お前たち以外にも迷子が多い。何故なら、ずっと同じ景色、似たような建物が続くからだ。生まれも育ちもベイカー街な俺たちは自由自在に移動できるが、観光客や街の住人など、迷子になる人は多い。年間、迷子になりすぎて行方不明になる人もいなくはないが、だいたい目の前にあったパン屋のパンで生き延びて2~3日で帰って来る。それ以上かかるときは俺たちのように迷子の道案内が得意なベイカー街育ちの探偵がしらみ潰しに街を探して、迎えに行く」
「街ゆく人々の方向感覚を奪ってるんです? 恐ろしい街ですね」
「街中に現在地を見失わないための目印や、ランドマーク、看板をつけてあげる必要がありそうだね……」
「観光案内も得意だから、適当に街を歩いて案内するだけでいいのなら、そうするが。行きたい場所などはあるか?」
「僕のオススメは探偵ギルド前の噴水広場です! ときどき手品師とかのパフォーマーがいることがありますよ! あとハトが多いです!」
「うん、よく知っているよ。ボクは探偵ギルドに住み込みだからね、毎日窓から見えている。まあ、改めて教えてくれてありがとう」
「やれやれ、リドルさん。まだ僕たちは、この街の全貌を知ることができていないようですね……」
「……パン屋と探偵事務所だけで、8割方は知っている気もするけどね」
こうして俺たちは、改めてこの街の新入りであるリドルとアズールの案内依頼を請け負うことになったのだった。
探偵事務所を出た瞬間、俺は案内を始める。
「まずスタート地点として軽く紹介するが、ここが『真剣解決(マジでかいけつ)・ヴァンルージュ探偵事務所』だ。ヴァンルージュ探偵事務所はこの街に2軒あり、『元祖・発祥・本家本元ヴァンルージュ探偵事務所』の方が、俺の親父殿がやっている事務所だから、間違えないようにな。主な特徴としては、俺たちは昼間、向こうは夜間の依頼を中心に多く受け付けている」
「説明ありがとう。キミたちの事務所については、それなりに分かっているよ。というか、覚えやすいんだ、目印に」
「そうか? 普通のビルだと思うが」
「ここだけ奇妙なお面の壁飾りがかかっていたり、なぜか玄関先に狸の信楽焼が置かれていて、そしてソイツが『真剣解決・ヴァンルージュ探偵事務所こちら←』という案内のパネルを持ってくれているので、エクステリアの統一感がないことはさておき、非常に覚えやすいです」
「親父殿や両親からの旅行のお土産だ。せっかくもらったので、飾っている。パネルはデュースがつけた。役に立っているのなら何よりだ」
それから俺たちは、雑談しながらまずは街の端、汽車の駅まで行こうと連れ立って歩いていく。
その途中で、人に会った。親父殿だ。
「おお、シルバー。おぬし今日はこんなところで何しとるんじゃ?」
「親父殿。俺たちは道案内の依頼中です。みんな、この人が俺の親父殿だ。名前は、リリア・ヴァンルージュと言う」
「ああ、この人がキミのお父さんなんだね。事務所の名前が被ったって言う。ボクは探偵ギルドのリドルだ、一度ご挨拶に伺いましたかね。改めてよろしくお願いします」
「うむ、よろしく、じゃ!」
「リリアさん! お久しぶりです!」
「おお、デュース。おぬしも変わらず、元気そうじゃな。良いことよ」
にこやかに挨拶を交わす親父殿を、アズールは怪訝な目で見る。
「僕はアズール・アーシェングロットです、以後よろしくお願いします。……ええと。こちらが、シルバーさんとは血の繋がりのない、名付け親の方のお父さん、ですかね? で、実のお父上はまた別、と」
「そうだ」
「シルバー……。じゃからわしのことを『親父殿』呼ぶんは混乱を招く言うたじゃろ……」
「ですが親父殿は親父殿です。小さい頃からそう呼んできました。とと様、親父殿、と」
「うむ。わしがそう呼ばれる度に本来のおぬしの父がいつも微妙な顔でわしを見つめておって気まずかったぞ!」
「父さんのことも平等に、ちゃんとパパだの父さんだの父上だのと呼んできたはずだが……なぜ、微妙な顔を……?」
そんな俺の疑問になぜか呆れながら、親父殿は改めてアズールに説明をする。
「ええと、おぬしは……アズールじゃったな。何か疑問がありそうじゃが」
「はい。あなたはいわば、シルバーさんの名付け親。であり、血縁上は他人。なのに、なぜか姓は一致している。これは一体どういうことなのか、と思いまして」
ご家庭の事情として踏み込んではいけない事情でしたら申し訳ありません、とアズールが言う。
「ああ、それな。話せば長くなるのじゃが。勝手によそん家の事情を話すのも良くないかのう」
「では、俺が話しましょう。実は、父さん……血縁の方だな。父さんは元々孤児で、苗字を持たなかった。では母方の名前を継承すれば良いではないか、という話ではあるのだが、それも出来なかった。母には、少々と言えず素行に問題のある兄がおり、俺を身ごもったあと、家ごと兄と縁を切りたがった。それで、父と母はある日駆け落ちをし、このベイカー街へと引っ越してきて、俺が生まれたというわけだ。そして、母はその後、俺が叔父との諍いに巻き込まれないようにと、俺に家の名を継がせることを嫌い、俺も生まれてしばらくは苗字がなかったというわけだ」
「なるほどね。そこまでは分かったよ。でも、どうしてそれが彼の名を継ぐことになるんだい?」
「ああ。親父殿は、先ほども言ったが、俺の幼い頃から習っていた剣術の師匠であり。また、同時に結果的な名付け親でもあった。なので、俺が18歳になり成人するとき、これからは苗字もないと不便だろうと言われて。好きなものを名乗っていいと言われたから、それなら第二の父として苗字を親父殿から頂きたいと言ったら、通った」
「リリアさんは『自分の名前もそんなにろくなもんじゃない』って微妙な顔をしてましたが、お義父さんがじって無言でリリアさんを見つめてたら『名づけの件は悪かった言うとるじゃろ! 分かった分かった、好きにせい!!』って折れてました!!」
「名づけの件って何?」
「赤子のシルバーさんが、リリアさんが軽口で告げた『シルバー』という名前を気に入ってしまい、頑なに自分をシルバーだと言い張り続け改名に至った事件のお話です」
「それは……地味に、恨まれてるんじゃないのか?」
「元はと言えば、俺が自分をシルバーだと思い込んだのが始まりだ。親父殿はさして悪くないはずだが、時々無言の圧をかけているのは目に入る」
「ま、まあ気にするでない。あやつとは昔馴染みじゃし、あれもあやつなりのじゃれ合いの一環じゃ。……たぶん。じゃれ合い、じゃよな? あやつ、昔から妙に冗談が下手な男じゃからのう……常に真顔じゃから、冗談と真実の判別がつかんわ……」
「まあ、気安い仲であるのは間違いなさそうですね、皆さま。そういうことでしたら、安心いたしました。不躾な質問をしてしまい、申し訳ありません」
「良い、良い。こちらこそわけのわからぬ関係性で悪かったな。おぬしらも仕事、頑張るのじゃぞ!」
「待ってください、リリアさん。ボクからもうひとつだけ質問が」
「なんじゃ?」
「……なぜ、同時期に開業したのに貴方は事務所の看板に、『元祖・発祥・本家本元』を標榜しているのですか? 名前が被っていること、貴方はご存知だったのでは?」
リドルの質問に、親父殿は答える。
「ああ、それは決まっとるじゃろ。その方が面白いからじゃ! あとは、今の話を聞いて分かる通り、正真正銘わしが『本家本元』のヴァンルージュじゃからじゃ! 客にとっては探偵のヴァンルージュがふたりと事務所のヴァンルージュがひとつだけと、そうやって別々にあったら、ややこしいことこの上ないからのう!」
「な、なるほど。一応合理的な理由があったのですね。分かりました、引き留めて申し訳ありません。では、ボクたちはこれで」
「うむ、皆達者で暮らすのじゃぞ! ではな!」
そうして親父殿と別れ、またいろいろ話している間に、俺たちは街の端に着いたようだ。
「あそこが、この街の入り口、ベイカー駅だな」
「駅の名前は普通なんだね」
「当たり前だろう。公的機関だぞ?」
「公的機関以外は普通じゃなくていいとでも?」
リドルの疑問はさておき、駅のまわりをぐるりと見渡し、俺は告げる。
「見ての通り、駅のまわりにはヒツジの牧場が広がっている。これを抜けるとパン屋通りだ」
「ヒツジ、パン、ハト……。平和を絵に描いたようなシンボルマークしかない街ですね……探偵いります? この街」
「正直探偵いらないんじゃないかとボクも思っていたけれど、探偵がインフラを担っている部分もあるみたいだよこの街……。探偵っていうか、探偵という名の『なんでも屋』だと思った方が良さそうだね、この街の探偵の定義は。推理しないし。誰も。事件起こらないし。何も」
「街の景色としては、赤茶色のレンガを敷いた石畳で舗装された道と、黒の街灯を基調としている。一般的な外装だな」
「まあ、ハイ。探偵ギルドとその前の噴水広場を中心に、探偵ゾーンとパン屋ゾーンが二重の円状に広がる構造ですね。そして外周にはヒツジと駅。それなりに街の外観としては綺麗ではありますよ、ハイ。何故こんなにも美しく整理されたデザインで、建物の中身と街の実態だけが狂ってしまったのかが僕にとっては意味不明なのですが」
「車で移動することもできるが、迷子になったとき探偵事務所に大抵駐車場がなくて困るので、歩いて移動する人の方が多く、皆だいたい健脚だ。歩けない人や足の悪い人は、いずれかの探偵が代わりに買い物や用事を手伝う」
「この街の探偵、福祉も担っているんですね。本当になんでも屋だ」
「意外と合理的なんだぞ。あえて福祉だのなんだのと名付けるより、公的な制約に縛られない範囲で、フレキシブルに動ける存在がたくさんいるのは」
「専門のリーダーを入れてある程度方向性ごとに束ねてもらうともっと探偵ごとの専門性が上がっていいかもね」
「本気で小さな国家の社会実験じみてきましたね。いつかこの街、都市国家になるのでは?」
それから俺たちはまた、ヒツジたちの牧場の合間を縫ってパン屋通りへと戻っていく。
「そういえば、アズール。『ディテクティブ・ペイ』はキミのリストランテには導入するの?」
「導入せざるを得ないでしょうね。まあ、24時間いつでもこの街だけに存在する謎のATM『ベイカーバンクATM』を使うことで通常の現金に引き換えが可能ということなので、それならギリギリ許せます。『探ペイ』とやらの信頼度は僕からすると依然低いので、常に全自動で国立銀行に資金移動はしておきたいですが」
「探ペイは入れるのが正解だろうな。探ペイがないとレジが混みあい、決済に時間がかかって行列ができ、すごく不満の声が上がるだろう」
「探ペイ、便利ですからね! カードひとつでピッてできて! アプリでいつでも残高も確認できるし! カード忘れても、アプリのバーコードから支払ったりできるし!」
「ひとりの探偵が混雑解消のためだけに作り上げたシステムとかいう意味不明な背景がなきゃ僕も案外優秀なシステムなのでは、と思えたんですけどね、ええ……」
そんなことを話していると、ひとりの探偵が俺たちに声をかけてくる。
「おや? そこにいるのはもしや……我ら4兄弟の末息子にして可愛いを担当する、デュースではないか?」
「あっ! ドラコニアさん! こんにちは!」
子犬のように喜んで駆け寄るデュースに向けて、その人は愛い愛い、と告げ、頭を撫でる。
「ふふ、よせ、ドラコニアさん、などと他人行儀な呼び方は。いつものように、『兄様(あにさま)』だったり『マレ兄様(まれにいさま)』と呼んでくれてもいいのだぞ?」
「呼んだことないです! マレ兄様!」
「良い。僕の前だけでかまわない、僕といるときはシルバーよりも僕を溺愛するように」
「何故ですかマレウス様。俺からデュースを取らないでください」
俺は、堂々と浮気宣言をするマレウス様の言動にツッコミを入れる。するとマレウス様は愉快そうに笑った。
困ったな。マレウス様は小さい頃、赤子だったデュースが「にーに」と間違えて呼んでからというもの、ずっとデュースをはじめとした俺たち幼馴染4人の長兄としての自我をお持ちなのだ。
「僕は、お前たちの昔馴染みである。まず初めに両親があった。僕が生まれ、しばらくして向かいの家にお前が生まれた。やがてその隣にデュースが生まれ、僕の隣にセベクがやってきた。つまり、僕は地域に4兄弟を持つ、皆の兄さまなのである。なので、年の離れた下の方の弟を可愛がるのは当然であろう」
「デュースは俺のですマレウス様」
「ふっ、我侭な次男よ」
「こちらの方はどなたです?」
アズールの疑問に、俺は答える。
「こちらの方は、聞いての通り俺とデュース、そしてついでにセベクの幼馴染、マレウス様だ」
「幼馴染多くないですか。何人いるんです?」
「ええと。まず、俺の家があるだろ。隣がデュースの家で、反対隣が親父殿の剣術道場で、その3軒の向かいがマレウス様の家だったんだ。で、そのマレウス様の家の隣にさらに幼馴染のセベクが越してきて……結果、俺含め4人の幼馴染と、2人の父が俺には誕生した」
「ざっくりしすぎていて意味が分かりませんが、まあ良いでしょう。全員近くに住んでいたのは分かりました。僕にも幼馴染はふたりいますし。マレウスさんは、探偵でいらっしゃいますか? それとも、パン屋で?」
「僕は探偵だ。『王立がおがおドラコニア探偵事務所』を開いている」
「この街のネーミングセンスはどうなっているんだ?」
小声でアズールは呟く。リドルが呆れた顔をしつつ、話を掘り下げた。
「貴方があの事務所の探偵でしたか……。引っ越しの際、助手のセベクには世話になりました。つかぬことをお伺いしますが、事務所の改名のその後はどうですか?」
するとマレウス様は答えた。
「ああ。元々は『王立ドラコニア探偵事務所』という名前だったのだが。その頃、客がぱったりと来なくてな。もしや威厳がありすぎて依頼が来ないのでは、とセベクが言うから、物は試しよ、と思い。最近ハマっている玩具である『がおがおドラコーンくん』からもじって、親しみやすく『がおがお』を事務所の看板につけてみたら、『怖くなさそう!』と、来客が在るようになった。セベクには褒美を取らせねばならないな」
「実際に効果あったんですね!? この街の住人単純なのかな!? ま、まあ、改名の効果があったようなら何よりです……」
「あ、そうだアーシェングロットさん! マレ兄様のお家はすっごいお金持ちなので、探ペイのスポンサーとして出資してくれてもいるんですよ! 王族の親戚なので、ベイカーバンクATMは国立銀行とも提携できてるんです! だから探ペイはちゃんと信頼できますよ!」
「僕らの疑問を力技で殴って解決して来るのやめてもらっていいですかね!? それに王族の親戚がこんなところにいていいんです!?」
「なんだ、不満か? アーシェングロット。このベイカー街に僕が代表として君臨するのも、王家の措置として必要なことなのだぞ?」
「いいえ、不満なんてとんでも! マレウスさんの君臨、大変ご立派でよろしいかと!」
どうやらアズールのやつ、長いものには巻かれたらしい。マレウス様の威厳にはさしものアズールも弱かったようだ。
「ふふ、良い。許す。僕は依頼探しのついでに、この辺りの散歩をしていたのだ。なので、そろそろ失礼しよう。お前たちも励めよ、ではな」
そうして、マレウス様は去った。
それから、あのパン屋は総菜系が多く、あっちは甘いものが多いと特徴を説明しつつ、リドルに『パン屋の内部情報じゃなくて外装の方を案内してくれよ街の道を覚えたいんだから』などと言われながらパン屋通りを抜けていると、また人に会った。知らない人だ。前にビルの谷間で会った、フロイドというやつに似ている、気がする。
「お前は……フロイド、か?」
「はい、僕はフロイドです。貴方は……?」
「違うでしょう、ジェイド。こんなところで何をしているんです」
アズールがすぐに訂正した。どうやらコイツは、フロイドではないようだ。
「ふふ、ネタばらしが早いですね、アズール。知ってる人も知らない方もこんにちは。皆さんお揃いですね。僕は昼下がりのジェイド・リーチです。ちなみに、フロイドは僕の双子の兄弟となります。以後、お見知りおきを」
「俺はシルバーだ。よろしく、昼下がりのジェイド・リーチ」
「僕はデュース・スペードですっ、『真剣解決・ヴァンルージュ探偵事務所』で、可愛いっていうのを担当しています! よろしくお願いしますっ、昼下がりのジェイド・リーチさん!!」
握手をしようとしたデュースの手に、差し出そうとした手を止めてジェイドは言う。
「可愛い担当……ですって……!? そんな……! ここに来て僕のライバルが現れるだなんて……!! 僕も『モストロ・ラウンジ』の可愛い担当として、負けていられませんね。ここは僕が正当なライバル兼先輩として引っ張ってさしあげます。お互い、このベイカー街で頑張っていきましょう」
「はいっ、よろしくお願いします! 昼下がりのリーチ先輩!!」
「キミのリストランテにはずいぶん特殊な可愛い担当がいるんだね」
「たった今この瞬間にアイツが自称し始めただけで、ウチに可愛い担当の役職は存在していません。あまりふざけるなよ、ジェイド。あとデュースさん、シルバーさん。コイツはただのジェイド・リーチなので、昼下がりという枕詞は必要ありません。ツッコミが渋滞するのでボケは程々になさってください。で、お前は何してるんですこんなところで」
「今はパン屋さんひとつひとつの特徴をメモしながら、散策していました。きのこを使ったパンがおいしいパン屋さんがあると嬉しいなと思って」
そう告げるジェイドに、俺は大きく納得して頷く。かつて、俺も同じことをしようとして、パン屋が多すぎてやめたことがあるからだ。
「分かるぞ、ジェイド! 俺もきのこを使ったパンやピザは、好きだ!」
「本当ですかシルバーさん! 最高ですよね、きのこ!!」
「ああ!! きのこほど素晴らしい食材はないだろう!! いい店があったらぜひ教えてくれ!」
「ええ、任せてください!!」
「変なところで意気投合しちゃったよ、あのふたり……」
盛り上がる俺たちを、リドルとアズールがやれやれと呆れた目で見ていたのだった。
「きのこ談義もしたいところですが、今はパン屋さんを制覇しようとしているので、これで失礼しますね。今度正式にきのこ談義の依頼をお出しします」
「ああ、ぜひ出してくれ。すぐに受ける」
「僕きのこ分からないですっ、先生!」
「安心してください! 初心者の方にもわかりやすいよう、紙芝居などを使った講座できのこをはじめとした山の幸の魅力を余すことなくお伝えしますよ!」
「紙芝居! それなら僕にもわかりそうです!」
「新たに妙なビジネスというか、会合を作り始めるな! まったく……。忙しいならさっさと行きなさい!」
「はいはい、もう行きますよ。それでは皆さん、僕はこれで。ではまたの機会に」
そうして、ジェイドは去った。残念だ。もう少しジェイドときのこの話、語ってみたかったが。
アイツと一緒なら、いいきのこが食えそうだ。
「一応言っておきますが、ウチのリストランテのメインはシーフードです。きのこはそんなに扱ってませんからね」
そんなアズールの言葉を後目に、俺はいつかきのこ料理のレストランもこのベイカー街にできることを夢見るのだった。
そうしてパン屋通りを抜け、何事もなく探偵事務所通りの案内を終えかけた、そのときのことだった。
「怪盗が出たぞ!! 広場の方だ!!」
街の人々が騒ぐのが聞こえた。
「なんだって、怪盗!? それは放っておけない、急ごう!!」
「ええ、急ぎましょう!! 僕の金庫や財布が盗まれたりしたら大変だ!!」
そう言って街の中央にある噴水広場へ走り出し始めたリドルとアズールを、俺たちふたりも追う。
デュースが、追いかけて走りながら俺に尋ねた。
「シルバー先生。怪盗って、アイツですよね。この街によく出没する……」
「ああ、そうだろうな。ちょうど良かった。リドルたちにも、アイツのことを知ってもらおう」
そうして、噴水広場へ辿り着く。そこでは。小さな特設ステージにそびえ立つマイクの前に、ひとりの男が立っていた。
『ボンジュール、ベイカー街の皆さん! 街の皆さまの心を今日も戴く、昼下がりの怪盗『アルセーヌ・ルーク』だ。今日もあの美しきタレント、『ヴィル・シェーンハイト』のカバーソングを披露しに参上したよ! 私ごときが彼の魅力の一端を伝えきれるとも思わないが、それでもこの情熱を知ってもらいたい!! なので聞いてもらおう『Absolutely Beautiful』……!』
そうして、広場には演出の煙幕と共に、音楽が流れ始める。ステージ上では『怪盗アルセーヌ・ルーク』に扮した青年が、ダンスと歌を披露して、野次馬根性で集まった住民たちは、わあわあとセットリストに合わせて盛り上がっていた。
「……あれ、誰? 何?」
そう告げるリドルに、俺は答える。
「日曜の午後2時だけにこの街に現れる怪盗、『アルセーヌ・ルーク』だ。主に街の主婦層の心を盗んでいる」
「ええと……物理的・金銭的な被害はないのですか?」
「特にない。怪盗とは言っているが、実際に行うのは彼の推しタレントである『ヴィル・シェーンハイト』と『ネージュ・リュバンシェ』を街の住民に勧めるためのパフォーマンスだけだ。恐らく、この街には推しのタレントを布教する目的で来ている。今日はコピーライブのようだが、DVDの上映会や推し語り大会をしていることもあるぞ」
「そういえばミニライブイベントの許可申請がギルドに届いていたような……何? なんなのこの街? 変人しか街に入れない決まりでもあるの?」
「その場合ここに住みつき始めたお前たちも変人になるが、かまわないか?」
「かまうよ。ボクは普通だ!」
「当然のように僕を切り捨てないでくださいリドルさん」
困惑するふたりをよそに、俺はひととおり街の紹介は終わったな、とうなずく。
「いろいろ邪魔が入ったが、最終的には街の中心の方を目指し、この探偵ギルドに戻ってくれば、再び迷子になることは少ない。『電脳探偵』イデア・シュラウドが発明した『探ペイ』のアプリに、リアルタイムで街の様子が更新される地図機能も入れられるから、困ったらそれをインストールして使うといい。それを使うと、GPSのマーカーが現在地を教えてくれる」
「無駄にハイテクだな!? やりたい放題ですかそのイデアとかいう探偵は!!」
「どうせならあれもこれも、と欲しい機能を次から次につけてったら、『容量が大きくなりすぎてスマホのストレージが圧迫される』って苦情が出たので、アプリのベースはシンプルな探ペイの決済機能だけにそぎ落として、DLCみたいな形式で他の機能は使いたい人だけダウンロードして使えるようにしたらしいです!」
「本当にすべてが行きあたりばったりで運営されているなこの街!? いろいろやる前にちゃんと考えて計画しろ!!」
一通りツッコミ終わったらしいアズールが、溜め息を吐く。
「ま、まあいいです。今日は改めて街の案内、ありがとうございました。何かありましたら、またお声かけしますね」
「ああ。いつでも呼んでくれていい。もし、街で迷子になったなら、俺たちはどこにでも迎えに行けるしな」
「よくこの街に生まれたときから住んでいて気が狂わなかったね……いや狂ってるから今のキミたちになったのか? ともかく、助かったよ、ありがとう」
それじゃあボクたちはまた街の計画を詰めていくから、今日はこれでね、とリドルは言う。
「依頼料は探ペイ同士での送金も可能なので、試しに使ってみてもいいですよ! この名刺のQRコードと探偵番号から可能です」
「ああ、これはご丁寧にどうも。あとで送金してみます。……アプリのセキュリティ面を厳重にチェックしてから、にはなりますが」
「かまわない。では、リドルもアズールも。魅力的な街づくり、頑張ってくれ。応援している」
「ありがとう。絶対にここをまともな街にしてやるからな」
「まずは集計した住民アンケートの結果について、から協議しましょうか、リドルさん。ちなみに建設希望はパン屋が45%、探偵事務所が40%で計85%の住民がパン屋か探偵事務所の新たな建設を希望しています」
「馬鹿なのかなこの街の住民は」
そうしてリドルとアズールは、仲良さげに話し合いながら探偵ギルドの中へと帰っていく。
俺たちはそれに手を振って見送り、手を繋いだ。
「俺たちも事務所まで一緒に帰ろうか、デュース」
「はいっ、シルバー先生!」
そうしてデュースを連れ、最寄りのスーパーマーケット『唯一無二』2号店に寄り、買い物をして帰る。
「おっ、デュー助じゃないか。これオマケの大根だ、サービスしてやるから持って帰んなよ! アンタは可愛い担当を頑張らないとな、シルバー先生が喜ぶからな!」
「わっ、ありがとうございます! 助かりますっ! 今日はぶり大根にしましょうか、シルバー先生!」
「ああ、そうだな」
「おっと今日は探偵先生もいたのか! ははは、かわい子ちゃんを口説いたのがバレちまわあ!」
「ふっ、かまわない。うちの子は可愛いからな、つい口説きたくなるのも仕方ないことだ」
そうして、事務所へ帰り、デュースと共に料理や家事をして過ごし、やがてソファでうたた寝をする。
「たくさん歩いて喋ったから、疲れましたね、シルバー先生。おやすみなさい!」
そう言ってデュースは俺の身体にブランケットをかける。
今日も何もおかしなことが起こらない、平和なベイカー街で過ごした一日なのだった。
*おしまい
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