※現代学パロ(何の説明もなく始まります。雰囲気で読んでください)
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今年の夏は、特別だ。
去年までの夏は、なんていうかサイアクだった。蒸し暑いし、ダルいし、つるんでた仲間たちもろくでもない。
でも、今年は違う。ちゃんとしたダチや、特別な人と過ごせる、スポドリのCMみたいに盛りだくさんで爽やかな夏を過ごすんだ!!
図書館で勉強しながら、ひとり意気込んでガッツポーズをしていると、目の前にその特別な人が現れた。
「どうした、デュース。ずいぶん楽しそうだな」
「シルバー先輩!」
この人、シルバー先輩は、僕の特別な人だ。どう特別なのかっていうと、僕が特別に大好きな人だって意味での、特別な人だ。
気持ちを持ち始めた最初の頃は戸惑ったり、驚いたりもしたけれど、今はそれだって僕の大事な気持ちだって受け入れている。
まあ、先輩との関係とか以前に、男同士でもあるし、いつか叶うかな、なんて恋する女の子みたいなこと思ってるわけじゃないが……それでも、せっかく同じ時間を過ごせるひと夏の間くらい一緒にいられる時間を増やしたりはしたいかな、なんて考えてる。
「気合い入れてたんです! 今年の夏は、後悔したくなくて」
「後悔? 去年までの夏は、良くなかったのか?」
「うっ、ハイ……。正直、あまり良い過ごし方をしてるとは言えませんでした……。でも! 今年の僕は違うんだってとこ、皆にも、母さんにも……見せてやりたくて」
だから、夏の計画立ててたんです! そう告げると、シルバー先輩はいいことだなと笑ってくれた。ああ、好きだな、この笑顔。爽やかで、優しくて、穏やかな眼差しがそっと見つめてくれてるみたいで。シルバー先輩の不器用な人となりをそのまま表してるみたいだ。
「どんなことをする予定なんだ?」
「そうですね、プール行ったり、花火やったり、祭りにいくのもいいかな。冷たいラムネ飲んで、スイカとアイス食べて、……あっ、宿題も忘れずやらねえと、だな!」
「いいな。聞いているだけで、楽しそうだ」
「良かったら、シルバー先輩も一緒にどうですか? 全部はムリでも、いくつかだけでも。一緒に過ごしましょうよ!」
ヤバいちょっと声うわずったかな、なんて不安を抱えながら、シルバー先輩を誘う。なんでもない顔のフリをして。
「そうだな。予定が合えば、参加させてもらおう。その時はぜひ、声をかけてくれ」
「本当ですか!? やった、楽しみだな……!」
「ああ。ところで、デュース」
「なんですか?」
シルバー先輩は、僕に向けて笑う。僕の気のせいじゃなければ、なんだかその顔は楽しそうだ。
「もしお前さえ良ければ、なのだが。この後、少し付き合ってくれないか?」
それから僕は、学校の図書館を後にして。真夏の炎天下の下、全力で自転車を漕いでいた。ひまわり畑の中を突き進みながら、ギイとペダルが重い音を立てる。男子高校生二人乗せてキッツイのは分かるけど、僕も頑張るから、お前も頑張れ!
「デュース。やはり俺は、降りて走った方がいいんじゃないか? 疲れたら、すぐに代わるぞ」
「全然平気ですよ、このくらい……っ! ほら、もうすぐ下り坂だ!」
僕が自転車で、シルバー先輩が徒歩で来ていたから、僕はシルバー先輩に後ろに乗ってくださいと言った。シルバー先輩はそれなら俺が漕いだ方が良いだろうと遠慮したけど、僕は、後輩なんだから僕が漕ぎますよと譲らなかった。それで、今、シルバー先輩を後ろに乗せて自転車を漕いでるってワケだ。
僕らの白いシャツが、風にはためく。勢い良く滑り落ちる自転車のタイヤが回るのに合わせて、僕たちの髪も服も風に揺らされる。
「ほら! この風を、アンタと一緒に感じたかったんですよ!」
「……本当だ。心地の良い風だな」
シルバー先輩は気持ち良さそうに目を細める。僕は楽しくなって鼻歌を歌う。シルバー先輩は、何を思いながらか、それをただ黙って聞いている。そんな時間を過ごしてしばらくして、目的の商店街に着いた。
「お疲れ様。ほら、礼だ。汗をかいただろう、水分補給しておけ」
商店街に着くなり、シルバー先輩はスポーツドリンクを奢ってくれる。
「あざっす! いただきますっ!!」
ゴクゴクとペットボトルの8割くらいを一気に飲み切って、残りを自転車のカゴに入れる。
駐輪場を探して自転車を止めて、僕たちは商店街の中を歩いた。
「風鈴は売っているだろうか」
「たぶんありますよ! あっちの店、見てみましょう」
シルバー先輩は、商店街へ、家に飾る風鈴を探しに来ていた。一人で行っても良かったけれど、偶然、学校の図書室で僕に会えたから僕を誘ってくれたらしい。ただそこにいたから誘ってくれただけなのかもしれないけど、それでも僕を選んでくれたことが嬉しいよな!
「ああ、あった。……いろいろな柄があるんだな」
「ふぃー、涼しい!」
冷房の効いた店内から、風鈴を揺らすための涼しい風が吹く。奥から扇風機で風を起こしているみたいだ。リンリンって風鈴たちが好き勝手に音を鳴らしてる。とても涼やかだ!
「どの絵柄にしようか」
「金魚とか定番ですよね。あ、花火も綺麗だな!」
「そうだな。どの柄も魅力的で、目移りしてしまいそうだ」
シルバー先輩はいろいろな風鈴を見回す。僕はそんなシルバー先輩を、じっと見ていた。
好きな人と、こんな風に出かけられたり、そういうことに誘ってもらえたりするのって、嬉しいことだよな!
まあ、向こうはそんなこと意識なんかしてなくて、ただ後輩として誘ってくれただけなのかもしれないけど……。
そんなことを考えてたら、シルバー先輩は笑いながら振り向いた。
「デュース。この風鈴はどう思う?」
「あっ、いいですね! クラゲですか?」
「ああ。足もついている」
「いいと思います! 涼しげだし、可愛いですね」
それならばこれを買っていくとしよう、とシルバー先輩は店の奥に引っ込んで、会計を済ませる。
僕はといえば、先輩の用事終わっちゃったならこれでもうさよならかな、なんてちょっと淋しくなっていた。
けど、シルバー先輩はどうにもそのつもりではなかったみたいで。
「お待たせ、デュース。……ところで。まだ身体は冷えていないな?」
「はい。まだまだ暑いくらいですけど……それが、どうしたんですか?」
「俺も、お前と過ごす夏を先取りさせてもらおうかと思ってな。一緒にアイスでもどうだ?」
「わはっ、喜んで!」
それから僕たちは、近くのコンビニで一緒にアイスを買って、真夏の太陽の下、溶けてくアイスを買い食いした。
「うわ、すぐ溶ける! 手汚れる前に食っちまわないと……」
「そういうものなのか」
「そうですよ! 買い食いとかあまりしないですよね、先輩」
「そうだな。お前に、コツを教えてもらわなければ」
溶けないうちに一気に食べるのがコツですけど、やりすぎると頭キーンてなりますよ、と教えると、シルバー先輩は、ああ、かき氷を急いで食べるとなるものだな、と答えた。
「頭が痛くなるのが一瞬で済むのなら、溶ける前に早く食べた方がいいな」
「そういうもんなんですか!?」
溶けてしまっては勿体ないだろう、とシルバー先輩はサクサクアイスを食べていく。僕はといえば、アイスが溶けるのがもうちょっと遅ければ、もっと一緒にいられたのに、なんてことばっかり考えてた。
「先輩、好きなアイスの味って、何味ですか?」
「……バニラ……いや、ソーダだろうか」
「ああ、ソーダ。うまいですよね」
「お前は?」
「僕は……似たようなもんかもしれないけど、ラムネが好きです」
「ああ。それも、旨いだろうな。……爽やかな味わいがしそうだ」
他愛もない会話をしながら、5分もしないうちにアイスを食べ終わってしまった僕たちは、アイスの袋とか、ゴミを片付けて、帰り支度を始める。
いつまでも暑い日差しの中にいたら、身体を崩してしまうからだ。
駐輪場から自転車を取ってきて、待ってくれてるシルバー先輩の元に戻る。
「デュース」
「なんですか?」
帰り道、僕は自転車を押しながらシルバー先輩と歩く。二人で、歩く。行きは一緒に風を感じたくて自転車を漕いだけど、帰りは長く一緒にいたかったから。
なんて僕、せせこましいことばかり考えてるな。なんて自分で自分を笑った。
「今日はありがとう。お前に会えて良かった」
「シルバー先輩……」
何もない道で急に立ち止まってそんなことを言うもんだから、僕は、驚いてしまう。
「引っ越しでもするんですか?」
「何故だ?」
「急に改まってそんなこと言うから……」
「礼を言いたくて言っただけだ。そういう事情ではない」
シルバー先輩はこほんと咳払いして、仕切り直す。
「とにかく、今日お前に会えて……付き合ってくれて良かったと、伝えたかっただけだ」
「そう、なんですか」
相変わらず、期待させるようなこと言ってくれるよな。
「ああ。今年の……お前と過ごす夏は、きっと楽しいものになるだろう。だから、その始まりにまずは感謝を」
シルバー先輩の言葉に、ちょっとキザじゃないですかなんて笑うと、先輩は、そうだったかと笑い返してくれた。
それから僕は、シルバー先輩と別れて、自転車を漕いで、家へと帰る。
今日は一緒に過ごせたぞ、なんて弾けるような嬉しい気持ちを持ちながら。
そんな僕は、全身に風を感じながら、今年の夏は、いい夏になる予感がしてた。
どっか遠くで鳴る風鈴の音色が、僕の恋が始まる音に聞こえたような気がした。
*
帰宅し、玄関先に風鈴を飾る。しばらく部屋で涼みながら学校の課題をこなしていると、親父殿が帰宅された。
「ただいま〜」
「お帰りなさい、親父殿」
「うむ。シルバーよ、風鈴買ってきたんか? 涼しくて良いわ、風流じゃの」
親父殿の言葉に、俺は少し言葉に詰まる。
「はい……ええと。本来、買うつもりではなかったのですが……」
「お? なんじゃ、どうした?」
にやにやと笑いながら親父殿が続きを促す。ああ、これは、バレてしまっているな。
「……好きな子に、会えたので。共に過ごす口実に、使ってしまいました」
なので、土産です。そう告げると、親父殿は、そうかそうか、と笑う。俺は、チリンと風鈴の音が鳴る度に、己の恋心を自覚させられるばかりで。麦茶を入れたグラスの中で、カランと氷の解ける音さえも、俺のことを囃し立てているような気さえした。
*おしまい
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