大好き

・このお話はメインスト7章完結時点に執筆されています。
・星送りなど一部イベントストーリーのネタバレを含みます。

以上大丈夫な方はスクロール↓

 

 

 

 ある日の1-A教室。何事もない日常、そのはずだった。
 両手いっぱいに真っ青な薔薇の花束を持って、その人が現れるまでは。
「デュース。俺と、デートしてくれないか」
「……へっ!?」
 しどろもどろになりながら花束を受け取ると、シルバー先輩は改めて僕に向き直った。
「お前が、こういったものにあまり興味がないことも分かっている。それでも、今、この花束を贈らせてほしいと思った」
 それで、返事を聞かせてくれるだろうか? シルバー先輩は言った。
「え、っと、その……よろしく、お願いします……」
「そうか、ありがとう。日時はまた追って連絡する」
 ではな、とシルバー先輩は教室を去っていく。一体、何がどうなってこうなったのか、僕にはさっぱり分からなかった。
「な……なんだったんだと、思う?」
「え……愛の告白、じゃない?」
 呆然としているエースと監督生、グリムの元に戻って尋ねると、そんな答えが返ってきた。
「やっぱり、か……?」
「てかなんでお前うなずいたの。めちゃくちゃ唐突なデートの誘いだったし、いつの間に先輩と付き合ってたの?」
「……付き合ってない」
「は!?」
「だから、驚いた……」
 よく了承する気になったなお前、なんて言われながら、僕は当日どうしようなんてそればっかり考えていた。

 始めに言っておこう。僕は、シルバー先輩が好きだ。それで、そのうち告白くらいしてみようと思って、告白の練習してみたり、ラブレターなんか書いたりしてたこともあるくらいだ。
 ……でも、今日花束持って僕のところに来たのはシルバー先輩の方だ。デートなんて言われて思わずうなずいちまったけど、シルバー先輩が何をどう思って僕にそんなことを言い出したのか、それは本当によく分からないでいる。
 とりあえずデートってことならまともな服選んでやるから、というエースの言葉に甘えて、気合だけは入れていくことにした。

 デート当日。待ち合わせに指定された場所に、時間の10分前に着く。シルバー先輩の姿は、まだない。
「また寝てるのかな……」
 前に時計の街へ出かけたときのことを思い出して、先輩の眠り癖を心配していると、やがてシルバー先輩は現れた。
「すまない、待たせてしまったか? ……先ほど飛び起きて、焦った」
「大丈夫ですよ、僕も今来たところなので」
 あれなんかこのやり取りめちゃくちゃデートっぽくないか、なんて思ってたら、シルバー先輩が唐突に言い出した。
「今日は来てくれてありがとう。最初に、お前に言っておきたいことがある」
「は、はいっ。なんですか?」
 コホン、と咳払いをして、シルバー先輩はその言葉を口にした。
「俺は、デュース。お前のことが好きだ。だから、今日のデートを申し込んだ。今日一日、お前のことを楽しませてやれればいいと思う」
 それで、もし良ければ俺をお前の恋人にしてくれないだろうか。今日の最後に答えを聞くから、とシルバー先輩は言った。
「へ、あ、はっ!? ええ!?」
 僕は、めちゃくちゃに動揺した。え!? シルバー先輩が僕を好き!? なんで!? ってか今日の最後!? 僕の答えはもう決まってるようなもんなんだが!?
 今じゃダメか!? い、いや、今はまだ僕の覚悟が決まってない!! ……よく考えろ僕、これはチャンスかもしれない。今からデートのラストまでに覚悟キメて、シルバー先輩にはいって言うんだ!!
「……わ、分かりました。それでお願いします……」
「ああ、ありがとう。今日は頑張るから、よろしく頼む」
 こうして僕たちは、何故か両想いなのによく分からない関係のままデートに臨む羽目になった。
「どこか行きたい場所はあるか? 一応、計画も考えてきてはいるが……」
「僕は、特には……。デートとかって、どこ行けばいいのか、よくわかんなくて」
「そうか。では、計画通りに進めてみよう」
 そう言ってシルバー先輩に連れていかれた先は、水族館だった。
「お前は海が好きだと聞いた。海の生き物にも、興味があるのではないかと思って」
「水族館か。あまり来たことないから、確かに興味あるかも」
 チケットを買い、水族館の中へと入る。館内に展示されている魚たちの名前を見て、なんとなくリーチ先輩のことを思い出し、サバに親近感を持った。
「デュース」
 ふと、シルバー先輩が僕に手を差し出す。
「え?」
「そこには段差があるから、ほら」
 そう言ってシルバー先輩は僕の手を取り、段差に足を進めさせてくれる。……お、王子様みたいだ。って、んなこと言ったら僕は何だって言うんだ。お姫様、なんて似合うガラじゃないってのに。
 そんなことを思っていると、暗がりでそっと抱き寄せられた。
「……好きだ、デュース」
「へあっ!?」
「さあ、次の順路へ進もう」
 まさか、今そんなことをされると思ってなかったから、ドキドキが止まらないまま、通路の魚にも目をくれられず順路を進んでいくことになった。
 落ち着け、落ち着けと念じながら歩いていると、ふとシルバー先輩が振り返った。
「途中のステージでイルカのショーがあるらしい。見るか?」
「イルカ……見たいです!」
 可愛いよな、イルカ。イルカでも見て心を落ち着けよう、そうしよう。暗がりにいるとさっきのことを思い出してなんだか落ち着かないし。
 というわけでステージのある場所へ進むと、既にたくさんのお客さんがショーを待っていた。
「俺たちはこの辺りに座るか」
 真ん中より少し後ろくらいの座席に座る。足元に水が落ちていて、ひょっとしたら濡れるかもな、と思った。
 待っているとそのうち、イルカショーが始まる。いろいろな技を繰り出すイルカたちを、つい、わあと声をあげ、手を叩き夢中になって見る。
「すごいすごい、可愛いですね、シルバー先輩!」
「……ああ」
 隣を振り向くと、とてもやさしい顔で僕のことを見つめているシルバー先輩の顔があって、僕はなんだか急に気恥ずかしくなった。
 すると、僕の手になんだか暖かいものが触れた気がした。……大きな、ごつごつした手。シルバー先輩の手が、僕の手に重ねられていた。
「……」
 僕はもうイルカショーどころじゃなくて、いっぱいいっぱいになる。こんなの、なんて言えばいい、って思ってると、やがて肩にも何か暖かいものが乗ってきた。
「ふぇっ!?」
 驚いて声をあげてしまったが、よく見ると、シルバー先輩は……。
「……ぐう」
 ね、眠ってる。なんだ、眠ってただけか。僕は、人騒がせな人だな、と思いながら、それでも肩に寄りかかるシルバー先輩を避けはしなかった。
 先輩が寝ているのならとイルカショーの方に集中しようとすると、ショーは今にも大詰めで、イルカたちは最後の技を繰り出そうとしているところだった。
 『少し濡れるかもしれません』という飼育員さんのアナウンスで、あ、ここも濡れるかもな、なんて思って、シルバー先輩を起こそうかと思ったが、それよりも先に、イルカたちの尾ひれがあげる水飛沫がパンと飛んでくる音がした。
 濡れる、と思って目を閉じたが、衝撃はいつまでもやってこない。ゆっくり目を開けると、シルバー先輩の腕が僕を庇ってくれていた。
「……すまない、眠ってしまっていたようだ。濡れなかったか?」
「ぼ、僕は大丈夫です……」
 ……どこまでも格好いい人だな、なんて僕の鼓動はときめくのをやめてくれない。
 今日の最後に、本当に僕はYESと言ってしまっていいんだろうかなんて逆に不安になってきたくらいだ。
 また順路を歩き出そうとすると、今度は隣を歩くシルバー先輩から、そっと指を絡め、手を握られた。
「……2人でゆっくり、一緒に見よう、デュース」
「は、はい……」
 順路を進んでいくと、薄い暗闇の中にライトアップされたクラゲが幻想的にふわふわと光っていた。壁や床にも星座のようなライトが装飾されていて、とても綺麗だ。
「……綺麗だな……」
 ほう、とため息をついて眺めていると、シルバー先輩がぽつりとつぶやいた。
「確かに、綺麗だ。でも、俺はもっと綺麗なものを知っている」
「……」
「お前だ」
「買いかぶりすぎ、ですよ……」
「本当だ。いつかの星月夜、流星の下に舞い踊っていたお前ほど美しいものを俺は知らない」
 星送りのことを言ってるんだろうか。確かに、あれは終わったあとでいろんな人に褒めてもらえたけど……。それでもやっぱり言いすぎじゃないか、なんて思って、僕の頬は熱を持った。
 ……この人と恋人になったら、こんなのが日常になるのか。僕の心臓、持つか分かんないな。
 シルバー先輩の言葉が、行動ひとつひとつが、すごく恥ずかしくて、どことなく落ち着かない。でも、それでも。悪い心地だけはしていなかった。
 順路を進んでいくと、やがて展示が終わり、シーフードレストランに辿り着く。
「食べていくか?」
「そうですね、腹は空いたかも」
 2人でレストランに入り、パエリアやグラタンなんかを適当に頼む。
 これがかなりの絶品で、うまいと思って夢中で食べていると、やっぱりシルバー先輩に見つめられているのに気づいた。
「……食事中くらい集中した方がいいですよっ」
「ああ、すまない。うまそうに食べているのが可愛くて、つい見てしまう」
 照れ隠しに怒っても、シルバー先輩はあまり気にした風じゃない。ふと、先輩は僕の頬に手を伸ばしてきた。
「ついているぞ」
 そうして僕の頬についていたらしい米をそのまま口に運ぶ。僕は恥ずかしくて、さっきまでめちゃくちゃ旨いと思いながら食ってた料理も、なんだか味が分からなくなった。
 そんなこんなでレストランを出て、土産屋に入る。エースやローズハート寮長にお土産を買っていこうと、何がいいかなと考える。
「誰への土産だ?」
「エースとかユウ、グリム、それにローズハート寮長……あと寮の先輩方に買ってこうかと思って。あ、ジャックとかエペルたちにもいるかな……? ええと、あと母さんにもいるし、何人分買えばいいんだ?」
 僕が小遣いと相談して頭をひねっていると、シルバー先輩は笑った。
「ふっ。お前は相変わらず、人気者なんだな」
 少し妬けてしまう、と言いながら、シルバー先輩も土産ものを選び始める。でも、僕はそれには言いたいことがあった。
「……シルバー先輩こそ。いつも、ディアソムニアの人たちと、すっごく仲良しだと思いますけど」
 僕が入る隙なんてないくらいに、と呟けば、それは、とシルバー先輩が驚いた顔をした。
「僕、会計してきますっ!」
 選んだ土産品の数々を掴み、その場を逃げ出すようにレジへ向かう。今、シルバー先輩の顔が見られる気はしなかった。

 シルバー先輩の顔が見られないまま、土産屋を出る。先に外に出て風に当たってます、と告げて、水族館の前にある海沿いの広場、公園のような場所で潮風に当たっていた。
「……」
 まだ告白もしてないのに何言ってんだろう、僕。シルバー先輩、どう思ったかな。でも、僕のこと好きって言ってくれてたし、嫌な風には思わない、よな? いや、でも。待てよ。ディアソムニアの人たちとは相当仲が良いみたいだし、てか親父さんまで含まれてるし、シルバー先輩的にはダメなやつだったんじゃないのか。
 なんて考えてぐるぐるもやもやしていると、後ろから声をかけられた。
「デュース。ここにいたのか」
「ほあっ!!」
 振り向くと、心配そうなシルバー先輩が僕に近づいてくる。
「どうした? 何か、あったのか」
「い、いえ。何も……」
 ただ僕が勝手に緊張したりグルグルしてるだけだ。ってかそうだ、水族館見終わったし、もうデート終わりじゃないのか!? そろそろ答え出さなきゃいけないんじゃないのか!?
 水族館の中では結局シルバー先輩にドキドキさせられっぱなしで、覚悟キメてる暇なかったから、どうしよう!? なんて思っていると、シルバー先輩が心配そうな顔で僕の頬に手を添えた。
「本当に大丈夫か? 具合でも悪くなったのなら、言ってくれ」
「や、そういう、わけじゃなくて……」
「……」
 シルバー先輩はずっと、心配そうに僕を見つめてる。僕は、もう自分から切り出すことにした。
「で、デートの最後に、答え聞くって言ってましたけどっ」
「……ああ」
「僕、ずっと緊張してて……っ、それに、ずっと、館内でシルバー先輩と触れ合う度に、ドキドキして、心臓がバクバクして、ワケわかんなくなってっ」
「……デュース」
「だから、そのっ、えっと、っていうかそもそも、僕、元々シルバー先輩のことが……っ」
 言え。僕、口に出せ。言うんだ。シルバー先輩に、言え!!
 ……きっと顔は真っ赤で、泣きそうになってて、何が言いたいかなんて、シルバー先輩にはもう伝わってると思うけど、それでも僕は肝心の2文字を口にできない。
 気持ちがいっぱいいっぱいになりすぎて、好きだの一言が口にできなくて。
「僕っ、先輩のことが、先輩が……っ」
 だんだん、情けなくて、恥ずかしくて、涙まで出てきちまって。それを必死で拭ってると、シルバー先輩にそっと抱きしめられた。
「……大丈夫だ。デュース。ありがとう、お前の気持ちは伝わっている」
 それに元々、お前が俺のことを好きでいてくれるのは知っていた、とシルバー先輩は言った。
「え?」
 僕が顔を上げると、シルバー先輩は申し訳なさそうに眉を下げて笑う。
「……実は。少し前に、森の中である手紙を拾ってな。そこには、ずいぶん情熱的で可愛らしい、俺への想いが綴ってあった。一体誰がそんな気持ちを俺に綴ってくれたのだろうと探していたのだが……」
 そのときちょうど、図書館でノートを開き、居眠りをしていたお前の文字だと同じだということに気付いてな、とシルバー先輩は言う。
「俺のことを夢に見るほど、好きでいてくれたのはお前だったのかと……。それを見つけた途端に、いや……きっと、最初に手紙を見つけたときから、俺の方も好きになってしまったのだと思う」
 だから、本当はお前の気持ちを知っていてこんなことを申し出たんだ、狡くてすまない、とシルバー先輩は僕に謝った。
「ええ……もう……」
 確かに僕は書いたラブレターを一通なくして、ずっと探していたが。まさか、本人に拾われていたなんて。
「先輩、……すき、です……」
 シルバー先輩に優しく抱きしめられて、なんだかもう脱力して、すごく小さな声になったけど、ようやく僕はそれを口にできた。
「ああ……ありがとう、デュース」
 シルバー先輩は、僕が落ち着くまで、ずっと、ずっと優しく頭を撫でてくれていた。

 帰り道。電車に揺られる僕らは、黙って寄り添っていた。
 人が多いから座席には座らなかったけど、電車が揺れたとき、シルバー先輩は必ず僕を抱き留めてくれて、僕はそれにもいちいちドキドキしていた。

 学園に着いて、そろそろお別れしなきゃならないな、って思って。それでも、なんだかもう終わりなんてのは勿体ない気がした。
「もう、バイバイの時間……ですか?」
「お前さえいいのなら、少しだけ……さらってしまうぞ?」
 そう言ってシルバー先輩は僕を森の中へと連れていく。
「ここで、お前の手紙を拾ったんだ」
「そう、だったんですね……」
「ああ。大事な場所だ」
 だから、デュース。そう言ってシルバー先輩はまた僕を抱きしめる。
 僕は、抱きしめられる度にドキドキして、心臓がめちゃくちゃドクドク言って、こんなのシルバー先輩に伝わったら、バレたらって思って。……でも、嫌じゃなくて。
「……明日から、どんな顔して先輩に会ったらいいのか、わかんないです……」
「いつも通り、元気な顔を見せてくれればそれでいい」
 名残惜しいが、とシルバー先輩は僕の頬を撫でる。僕がきゅっと目を閉じると、ふっと笑うような声がして、そして、額に優しいキスが落ちてきた。そのまま、頭を撫でられる。
「今日はまだ、ここまでにしておこう。楽しみは取っておくことも必要だからな」
 寮まで送っていく、と言われ、僕は先を歩き出したシルバー先輩の後をついていく。
 なんだかずっとふわふわした夢みたいな心地で、何を喋ったかもろくに覚えていなかった。
「では、また明日な」
「また、明日……」
 シルバー先輩にさよならの挨拶をして、寮へと足を進める。一度だけ振り返ろうとして、やっぱり振り返ったらまた帰れなくなっちまうな、と思って、足を進めた。
 そんな僕の背中を優しく見つめている眼差しがあることには、気が付かないふりをした。

 部屋に帰ると、エースたちに土産をせがまれた。菓子を買ってきたから、3人で食えとエースに箱を放った。
「で、結局シルバー先輩とはどうなったの?」
 さっそく箱を開けてクッキーを食べながら尋ねるエースに、僕は一言だけ答えた。
「……こ、いびとに、なった……」
 ひゅう、と冷やかすルームメイトの声を聞きまいと、僕はベッドのカーテンを閉めて引きこもった。
(明日から、どんな顔して暮らせばいいんだ……)
 あまりの甘いひとときに、シルバー先輩に花束をもらってから今日までのことがまるで全部夢なんじゃないかと、僕は翌日までずっと悩む羽目になった。
 ……そんな話も、翌日のシルバー先輩はほほ笑んで聞いてくれるのだと、僕はまだ知らずに。

*おしまい

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