・シルデュ付き合ってる恋人設定
・シルバー先輩が猫になっています
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僕には、恋人がいる。すごく格好いい恋人だ。ひとつ年上の先輩で、ものすごく、ええっと……。渋くて格好いい!!
そんな先輩が、今。僕の目の前で、猫になっている。
「なーう」
事の始まりは、放課後。魔法薬学の補習に引っかかった僕は、同じように授業中居眠りして補習に引っかかってしまったシルバー先輩と、2人揃ってしょげながら補習授業に取り組んでいた。
そのとき作っていたものが動物に姿を変える変身薬で、僕が材料を入れながら次の材料を探そうとしたとき、うっかり材料を入れすぎて爆発したのをシルバー先輩が庇ってくれて、こうなったんだ。
一部始終の流れを見守っていたクルーウェル先生が、僕たちを見てこう言った。
「BAD BOY! ……今日の補習はこれまでだ。スペードはシルバーが元に戻るまで、責任を持って面倒を見るように!」
なんにしろ僕がやらかしちまったことだから、ケジメはつけないといけねえ。なので、僕はねこのシルバー先輩を預かることにした。
シルバー先輩を預かる許可をもらうため、ディアソムニア寮を訪ねる。
「……というわけでシルバー先輩が猫になっちまったので、僕の方で預かることになりました……」
「ほう、シルバーが猫に」
寮長であるドラコニア先輩はプレッシャーを放っている。うう、僕怒られるかな。
「良いのではないか? たまにはこやつにも息抜きが必要じゃろ。1日くらいはデュースに預けておいても……」
「ふむ。やろうと思えばすぐ元に戻せないこともないと思うが……。リリアがそう言うのなら、そうするか」
「んなぅ……」
シルバー先輩は何か不満そうに鳴いたけど、ドラコニア先輩たちにはどこ吹く風のようだ。
「ふん。デュースを庇って猫になるなど、修行が足りないのではないか?」
「なう」
「なんだその態度は。僕に何か文句でもあるのか」
シルバー先輩は文句を言うセベクにそっぽを向いてしっぽをピンと立てている。……アイツ、よく猫と喧嘩できるな。
「では1日ほど預けよう。スペード、シルバーを頼むぞ」
「はい! 任せてくださいっ!!」
こうして僕はねこのシルバー先輩と1日一緒に過ごすことになったのだった。
「それにしても、綺麗な毛並みですね。銀色でふわふわしてる」
「……」
シルバー先輩はあまり鳴かない。撫でても抱き上げても特に何も言わないから、何を考えているかちょっとわかりづらいな。
「どうしよう。シルバー先輩行きたいところありますか? ってか僕、部活に顔出せるかな……」
そんなことを呟いていると、シルバー先輩が僕の腕から降りて、とたたた、と走りだした。時々僕を振り返って、ついてこい、と言ってるみたいだ。
「どこ行くんですか?」
「なーぉ」
ねこのシルバー先輩を追いかけていくと、着いたのは運動場だった。
「運動場……。僕に部活に出ろって言ってるのかな」
「んなぅ」
「いいんですか?」
「なーぉ」
いいらしい。じゃあとりあえずウェアに着替えようと更衣室に行くと、そこにもシルバー先輩はとたとたとついてきた。
僕がウェアに着替え終わると、今度は運動場へとついてくる。
「デュース、遅かったな。……なんだその猫?」
「これか? シルバー先輩だ」
「また補習でなんかやらかしたのかお前……。うす、シルバー先輩。あまり邪魔にならないとこにいてくださいよ」
さすが理解が早いな、僕のダチなだけある。こういう事態に慣れすぎだと思う。
「僕も走ってきますね」
「んな!」
シルバー先輩を脇に置いて、ストレッチをし、スタートラインに着く。ピストルの音で走りだすと、隣にいつの間にかねこのシルバー先輩が来ていて、一緒に走っていることに気づいた。
「ははっ、一緒に走ってくれるんですか? 風が気持ちいいですね!」
「なぉ」
猫になってても先輩は頼りになるなあ、と思いながら僕はその後もねこの先輩と一緒に短距離走の練習を楽しんだ。
部活が終わり、帰る時間になると、シルバー先輩はいつの間にか疲れてコースの脇で眠ってしまっていたようだった。
僕はシルバー先輩を拾い上げ、更衣室で制服に着替えて、ハーツラビュル寮へと帰る。
談話室にいたローズハート寮長にはもうディアソムニアの先輩方から事情が説明されているようで、暴れさせないようにとだけ注意をされた。
部屋へ戻ると、ルームメイトの連中がトランプをしていた。
「お帰りー。あれ、何その猫?」
「かくかくしかじかでシルバー先輩だ」
事情を軽く説明すると、馬鹿だろお前、先輩に迷惑かけんなよとブーイングの嵐になったが、起きたシルバー先輩が不思議そうな顔でルームメイトたちを見回してブーイング大会はお開きになった。
「ええと……。僕は、シルバー先輩のごはんとか用意しなきゃだよな」
ハーツラビュル寮のキッチンへ行って何かないか漁ろうとすると、クローバー先輩に声をかけられた。
「デュース。どうした、小腹でも空いたのか?」
「いえ、今日は違って。シルバー先輩がねこになったんですけど、メシをどうしようかと思って」
「なるほどな。それなら……」
クローバー先輩は冷蔵庫を探して、鶏のささみを出してくれた。
「これなら猫でも食べられるだろ。あとで食べさせてやるといい」
「ありがとうございます!」
ねこでも食べやすそうな平皿と水のペットボトル、それから僕の分の軽食をもらって、僕はキッチンを後にした。
「ご飯はなんとかなりましたね」
「んなぅ」
あの後部屋に帰って、平皿にささみと水を盛ると、シルバー先輩は器用に食べてくれた。僕もその横で軽食をもらったが、僕より食べるのが上手だった気さえする。……気のせいだよな?
「えーっと、そしたら……次はシャワーか。シルバー先輩、水平気ですか?」
「なぅ」
シャワールームに連れて行き、さっさと自分の身体を洗ってしまう。それから外で大人しく待機していたシルバー先輩を呼んで、シャワーのお湯にくぐらせた。
シルバー先輩は自分からお湯をくぐり、石鹸で身体を洗う時も大人しくしてくれているので、まるでぬいぐるみみたいだ。本当に手がかからない。
一通りお湯で流し終わって、ドライヤーで乾かしながらタオルで身体を拭いていると、シルバー先輩はいつの間にか眠ってしまっていた。……気持ち良かったのかな?
自分の髪と身体も適当に乾かして部屋へとシルバー先輩を連れ帰る。抱き上げてもまだ眠っていたので、とりあえず僕のベッドに置いておいた。それからルームメイトにトランプに誘われたので、何ゲームかプレイする。
すると僕たちの騒ぎ声で起きたのか、シルバー先輩がベッドからとんと軽やかに降りて僕の横に鎮座した。
「先輩もやります?」
「できんの?」
先輩の前に手札を置いてみると、ちょいちょいと前足で手札を器用に確認している。すごいな。本物の猫だったら天才だぞ。
それから僕たちはねこのシルバー先輩を交えて一戦ほどババ抜きをプレイしたが、結果は僕の大敗に終わった。
「うう、悔しい……!」
「先輩とはいえ猫に負けんなよ」
心なしか嬉しそうな気がする(するだけか?)シルバー先輩に、そろそろ僕は勉強しますねと声をかけると、シルバー先輩も僕の勉強机に乗っかった。
「勉強見ててくれるんですか?」
「んなぅ」
シルバー先輩は香箱座りになって僕の開いたテキストの横で佇んでいる。僕がテキストをめくり始めると、シルバー先輩の目と顔がそれに合わせて上下した。
(ははっ、可愛いな。トレイン先生がルチウスをいつも連れてる気持ち、ちょっと分かるかも)
それから僕はしばらく勉強をしていたんだが、分からない問題の解き方が教科書のどこに書いてあるかが分からなくて唸っていたとき。シルバー先輩がふと前足で教科書のページをめくり、とんとん、と教科書のページを突いて教えてくれた。
「本当だ、ここに載ってる! ありがとうございます!!」
「なーぅ」
こうして僕は、シルバー先輩と一緒に勉強をしたのだった。……後ろでルームメイトから、『アイツ猫に勉強教わってるぞ』とか言われてるのは知らずに。
それから、授業の予習復習、あと遅れた一昨日とか昨日のぶんの予習もして、そしたらまたシルバー先輩はいつの間にか机の上で眠っていた。
時計を見ると、もうこんな時間か、と思うような時間になっていたから、そろそろ寝るかと僕はシルバー先輩に声をかける。
「シルバー先輩、ベッド入りましょう」
「……んな?」
片目を眠そうに開けるシルバー先輩を持ち上げて、ベッドの脇に置く。枕元でいいかな? 寒くねえかな。
「なかなか戻りませんね」
「んな……」
ベッドに入ってシルバー先輩に話しかけるが、もうだいぶん眠そうだ。ぽんぽんと撫でると、シルバー先輩は僕の被ったシーツの中にちょっと潜って顔を出し、そこで丸くなった。
「はは。中で一緒に寝るんですか? おやすみなさい」
「なぉ……」
僕は、いつものベッドの中になんだか暖かいぬくもりがあるのを感じながら、やがて眠りについた。
――翌朝。シルバー先輩はまだ元に戻っていない。ぐっすり眠っているシルバー先輩を置いて、洗面室で身支度を整える。ついでに朝食をもらって部屋に戻ると、まだシルバー先輩は眠っていた。
「おはようございます、シルバー先輩。朝ですよ」
「……んなぅ……」
「おはようございますっ!」
「……なっ……なぅ」
どうにかシルバー先輩を起こして、朝ごはんどうぞ、と昨日と同じメニューを渡す。僕もクローバー先輩が作ってくれていた玉子サンドを食べて、朝のエネルギーは万全だ。
「朝のランニング行ってから教室行こうと思います。いいですか?」
「なぅ」
シルバー先輩は特に不満がなさそうだ。じゃあ行きましょう、と僕は運動着に着替えて外へと走りだした。
木々を分けて、ランニングコースをシルバー先輩と走る。
「ははっ、朝の空気の中で走るのは気持ちいいですね!」
「なーぅ」
途中でジャックに会ったりもしたが、みんなで楽しく走って、朝のランニングは終わった。
それから。僕は教室に行って、ユウとグリムに先輩をねこにしちまった話とかして、そしていつも通り授業が始まった。
授業中、シルバー先輩が机の上で香箱座りになって眠っているのを見ていると、つられて眠くなっちまったが、そしたらトレイン先生に怒られた。……んだが、いつもより怒り方が優しかった気がするのは気のせいだろうか。
シルバー先輩はその後、しょげて反省……みたいなポーズになっていた。眠っちまったのが気になっているらしい。
「い、今はねこなんだからしょうがないですよ! ねこは寝るものですし!」
「なぅ……」
そんなこんなで授業もどうにか(?)終えることができた。
それから、昼休み。
「まだ戻んないですね。僕、薬の調合どんだけ間違えたんだろう……」
「んなぅ」
ねこのシルバー先輩を持ち上げると、その前足でぽふりと僕の頭に触れた。
「励ましてくれてるんですか?」
「んな」
どことなくきりっとした顔でシルバー先輩が見つめる。その顔にいつもの凛々しい表情の面影を感じて、僕は嬉しくなった。
「ははっ、ありがとうございます」
「なぅ……」
シルバー先輩に頬ずりすると、シルバー先輩はされるがままになってくれた。可愛いな。
「早く元に戻るといいですね」
そう言ってシルバー先輩の耳元に軽くキスをする。すると、視界が急に煙に覆われた。
「けむた……っ、ごほっ!」
あまりの煙たさに目を閉じて、そして次に目を開けたときには、目の前にいつもの……人間の姿のシルバー先輩がいた。
「……どうやら、戻ったらしい」
「そうみたいですね! 良かったです」
「ああ。お前には世話をかけた」
そう言ってシルバー先輩は僕を抱き寄せる。
「礼だ」
シルバー先輩は僕のこめかみにキスをする。れ、礼って、さっきのか、もしかして。
「お前の日常を覗き見ることができたようで、楽しかったぞ。さあ、皆に元の姿へと戻ったことを報せに行こう」
「はっ、はいっ!」
……シルバー先輩、猫の姿のときの記憶はあるみたいだ。そう思うとなんか、先輩に対して撫でたりキスしたりとかいろいろやったのが恥ずかしいけど、……い、いいよな。ねこだったんだから。
「どうした?」
「なっ、なんでもないです! 行きましょう!!」
そうして僕はシルバー先輩と共に、無事戻ったぞとみんなに報告することになったのだった。
……にしても可愛かったなあ、ねこのシルバー先輩。写真撮っとけば良かったかも……。
先輩には悪いけど、また時々ねこにならないかな、なんて思っちまったのは内緒ってことで。
*おしまい
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