・雪の精霊シルバー×死神デュースの人外パロです。
・年齢逆転要素アリ。
・なんでも許せる人向け
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寒さも厳しい冬半ばのこと。
今、俺たちは、引っ越しの準備を進めている。
と言っても、まだ本格的に荷物を運んだりしているわけではなく、引っ越し先を選んでいる段階なのだが。
世話になったスーパーの店長たちには、もうじき店をやめることを含め、あらかじめ引っ越しの話を通すと、存在を惜しまれた。
いつでも帰ってきていいからね、と暖かい言葉をかけられて、何か、むずがゆさと、心に淋しい穴が開いたような感じを覚えた。これが、別れというものか。俺にとっては、人間との別れは初めての体験だ。
デュースにそのことを告げると、『人間と僕らの生きる時間は違う。人間との些細な別れは、一生の別れになることもある。言いたいこととかあったら、後悔しないように言っとけよ』と教えを受けた。
とはいえ、まだ引っ越し先が決まるまでしばらくはこのあたりに住んでいるからと店長たちに言えば、それならどこかで時間を取って、送別会をしようと言ってもらえた。
暖かな人達だと思った。
そういうわけで店を辞め、時間の空いた俺は、デュースと共に引っ越し先候補の下見をすることが多くなった。
引っ越した先では、氷そのものや、氷を使った菓子、いわゆる氷菓などを売って暮らす予定だ。
それが好物であるマレウス様に報告すれば、ほう、ならば僕も忍びで食しに行こうか、なんて冗句を言われてしまった。
……ともかく。氷菓の販売は、冬はあまり商売にならないかもしれないが、裏方で強い冷房を違和感なく自然に使えるから良いのだとデュースは言ってのけた。
さて、引っ越し先の候補の中のひとつに、以前デュースの言っていたような田舎の村があった。
これは、その村であったことの話だ。
俺たちは最初に、その村でかき氷や数種類のドリンクなどを試し売りすることにした。
借りたワゴン車に、必要な氷や機器、飲料などを積んで、村へ向かい、2、3日から1週間ほどの期間を取り商売をしてみることとなった。
飲食店や娯楽が少なかったというその村での商売はうまく行き、冷たいものだけでなく、暖かいドリンクもいくらか売ったから(俺だって、カップスリーブがあれば暖かいカップを短時間持つことくらいできる)、この冬の季節でもそれなりに盛況ではあった。
最終的には、冬でこれならまあ暮らしていけるだろう、という程度の売り上げも出た。
だが、俺たちはそこに住むことを良しとしなかった。
それは何故か。
理由があるとすれば、それはこの村が持っていた、無自覚の悪意、というものになるのだろうか。
俺はこの村を訪れて初めて、人間界における偏見や差別というものに触れた。
俺たちが2人で商売をしていると、始めの頃は明るく受け入れてくれた人たちが、だんだんとよそよそしくなっていった。
不思議に思って、俺たちが何か無礼や不作法でもしたのかと尋ねれば、いえね、あなたたちは悪くないけどね……と、誰も口を濁すばかりだった。その理由が判明したのは、ある日のことだ。
ある日、小さな子ども連れの母親が俺たちの店を訪れて、その子どもが言った。
「お兄さんたち、ホモなの?」
「ホモ、とは?」
「男と男なのにキスとかする、キモい人たちのこと! 隣のおばちゃんが、お兄さんたちがキスしてるの見たって言ってたもん。ホモなんでしょ?」
「……キモいとは、どういう意味だ?」
「気持ち悪い、って意味! で、どうなの?」
俺は、この問いに困ってしまった。母親は、気まずそうな顔をしてはいるが、息子の口を塞ごうとはしない。
デュースはちょうど店の宣伝に出かけていたから、頼ることもできず。かといって嘘をつくのも良くないと思った。
だが、これから住むかもしれない村の人たちに悪印象を与えては……。
「なんも言わないってことは、やっぱりホモなんだ! キモーい!」
男の子はそう言い、結論が出るなり母親が彼を連れて去ってしまった。
俺は、自分とデュースの関係が、初めて他者から否定されたことに、何か鋭いものが胸に刺さるような感覚を覚えた。
やがて帰ってきたデュースが俺の異変に気付き、どうした何があったと尋ねた。だが、俺はこのような気持ちをデュースにまで味あわせたくなくて、何もない、少し注文の難しいお客さんが来て疲れただけだと誤魔化した。
それから俺は、悩んだ。俺とデュースのことは、純粋な子どもに、気持ち悪いと言われるような関係なのだろうか。
……俺がデュースを想い、時にくちづけやそれ以上を与えることは、誰かにとって悪しきことなのだろうか。
ただ、好きで、愛し合って、祝福されることに、何か……俺の知らない、許されるべき資格や条件があるのだろうか。
考えても、考えても、答えは出なかった。
翌日。男児は再び訪れた。俺は、どうしようかと頭を悩ませた。今日はデュースがいる。どうにかして、この子がデュースのいるときに口を開く前に、何かひとつ誤魔化して早く帰らせられはしないか、と。
だが、無情にもその子は窓口に来るなり口を開き、開口一番に言うのだ。
「ホモのお兄さんたち、ココアください」
「え、ええと……」
ああ、この言葉はデュースにも聞こえてしまったろう。俺が狼狽えていると、車を降りたデュースが、不機嫌そうに、だがそれを抑えて男児に言った。
「お前、今ホモっつったか。それ、誰から教わったんだ?」
「教わってない。母さんとか、隣のおばちゃんとか。みんな言ってるし」
「そうか……。悪いが、お前にココアは売ってやれない。他の店当たってくれ」
「なんでだよ! ここ以外売ってないのに!」
「たった今売り切れたとでも思ってくれ」
「意地悪すんなよ、ホモのくせに!」
デュースと男の子の押し問答は続く。デュースはちらりと俺を流し目に見て、俺がデュースを心配しているのを見つけると、ため息をついて男の子を諭し始めた。
「お前、自分が言った言葉で、相手がどんな顔してるのか、見えてないのか? 僕は確かに、お前から見たらホモかもしれないよ。でも、僕にも大切な人はいる。それがアイツだ。今、悲しい顔してるだろ。僕は、大切な人を酷い言葉で傷つけて悲しい顔させるような奴に、優しくしたくないし、商売もしたくない。たとえお前が子どもでもそれは同じなんだ。分かるか?」
「分かんねえし。キモい方が悪いんじゃん! ホモは子どもにも優しくできないんだな! もういいよ、買ってやらないから! あーあ、キモいホモのココアなんて誰も買わないだろうと思って、せっかく母さんに内緒で来てやったのに!」
「お前は、お前の母さんがキモいって言われたら、怒らないか? あれは僕にとって、そういう人なんだ。分かれよ」
「……意味わかんない。男のくせに、男同士で大事とか! そういうのは男が女だけにすることだろ! 意味わかんねえよお前ら、どっか行け!」
言い捨てると、男の子は走り去ってしまった。ずっと握りしめていた手のひらには、なけなしのお金が握られていたのだろうか。
「……ココア、良かったのだろうか」
「いいさ。アイツにどうしても買ってくれって、僕らが頼んだわけじゃない。アイツにも事情はあるのかもしれないが、僕らにも客を選ぶ自由はあるからな。冷たいと思うか?」
「……冷たい、とは、思わない、が。どうするべきだったのか、とは、思う。でも、君はたぶん、俺よりもうまくやった……」
俺の言葉を傍らに、デュースはワゴン車の片づけを始める。
「もう、片すのか? 予定していた営業時間は終わっていないが」
「目的は達成したからな。関係者の人たちに事情を話して、とっとと引き上げよう。ここは、僕らが引っ越すには向いてないってことが分かった。もっと住みやすいところに行くとするさ」
デュースが関係者に事情を話しに行っている間に、車の片づけをし、デュースが戻るのを待って助手席に座る。するとすぐに、運転席に座ったデュースは振り返りもせず車を走らせ始めた。
「……すまなかった」
「なんでシルバーが謝るんだよ、お前は何も悪くないだろ」
デュースは苦笑いをした。
「俺は、あの男の子が俺たちを良く思っていないことを知っていたんだ。……良くないことだと感じたから、君には聞かせたくなかったが、うまくやれなかった」
「……僕の方こそ、ごめんな」
「君こそ、何故謝るんだ」
「僕は知ってたんだ。人間界には、ああいう悪意や偏見があるって。シルバーにはできれば、人間界のいいところの方をよく知っててもらいたかったっていうか……。ああいうのは、存在や知識としては知っていてもいいけど、実際に浴びせたくはなかった。今回のことは、僕の、調査不足のせいだ」
「……俺は、知れて良かったと思う。俺と君の関係を、良く思わない人がいるということも。ただ……」
「ただ、どうした?」
「迷いが生じた。……俺が君を想い、君が俺を想ってくれることは、良くないことなのか? 子どもというのは、純粋なもので、善悪をよく知っている。それが俺たちのことを気色が悪いと否定する、ということは……」
「それは違うな」
デュースは、左手でポケットを探り、棒付きのキャンディを口に含んだ。
……以前はこういうときに食むのは煙草だったらしいが、俺が来てからは禁煙のため飴にしているらしい。
俺に良くない煙を吸わせたくはないから、と言って。
俺には、そうしたデュースの気持ちが悪いものであり、否定されるべきものだとはどうしても思えなかった。
ガリ、と飴を噛む音がした。
「子どもはさ、時々間違えるんだよ。その子のまわりの大人が間違えてると、特にな」
「あの子は間違っているということか?」
「どうだろうな。間違ってるかどうかを決めるのは、僕らじゃない。ただ、僕らにだけ言えることは、そもそも僕らは人間界の存在じゃないってことだ。人間界で間違いだとしても、僕らの世界じゃ、間違った関係じゃない。それは違いないだろ」
確かに。はざまの世界では、性別がどうのこうのと言われることはなかった。種族に関しては、どの種族でもかまわないが、人間界で生きている人間とは恋をするな、と問われることはあるが。
でもそれは、はざまの世界と人間界の均衡を保つための決まりだ。そして、それを破ったものは不幸になることが多いから、それを防ぐための優しい決まりでもあるのだと、幼い頃に俺は親父殿からそう聞いた。
「ただ、さ」
デュースは続けた。
「あの子の生きる、あの村の中っていう小さな世界では、あの子が正しくて、僕らが間違いなんだ。でも、人間界は広い。僕らが間違いにならない場所も、どっかにはある」
「……だから、探すのか?」
「ああ。しばらく拠点にするなら、住み良いところがいいからな。この村は僕らと相性が悪かった、たったそれだけの話だ。あの村の人たちは人たち、僕たちは僕たちで、理解しあえないなら、無理して関わらずに離れて暮らそう。今回は僕たちがよそ者な以上、それが一番いいんだ」
「そういうもの、なのか」
俺はなんとなく腑に落ちない感じを覚えた。
「気に入らないか? ︎︎でも、そうするしかないことも、たまにはあるんだよ。今までの人は、いい人たちだったな。優しすぎたんだ。ラッキーだったよ」
「……」
「ごめんな、守ってやれなくて」
「……君は、傷ついていないか?」
「傷つくって、よりは……怖い、だけだな」
「怖い?」
「なんでもねえよ、」
「なんでもないことはないだろう。何を恐れたか、素直に言ってくれ。……俺だって、君の心を守りたい」
「あー……シルバーは、僕とのことを後悔したか? ちっちゃい子に、後ろ指差されてさ」
「するわけがない。むしろ、君の想いも、俺の想いも、否定されるべくはないものであるはずなのに、と、混乱した。俺は君とのことを、悪しきことだとは思わないから」
「……なら、怖くないよ。大丈夫だ」
それきりデュースは黙ってしまった。デュースははっきり言わなかったが、彼が怖いと言ったのは、後ろ指を差されたことを理由に、俺が離れていくこと、なのだろう。
……ならば。ならば俺は守りたい。デュースが、あの男の子の、無自覚に育てられてしまった悪意から、俺を守ろうとしてくれたように。次は、俺が守るんだ。デュースを。
「デュース」
「なんだ、どうした?」
「次は、俺が君を守るから」
「……次なんて、ない方がいいぜ。ま、でも。……ありがとな」
こうして、苦い思い出を持ちながら、俺たちは村を後にした。次の引っ越し先が決まるまでは、まだ時間がかかりそうだ。
それから、俺たちはまだ住み慣れた狭いアパートの一室に戻った。
一室に戻るなり、デュースからベッドに押し倒されて、キスをされた。
「デュース?」
「な、シルバー。僕はお前とこうすることができて、幸せだよ。……これって悪いことか?」
「……いや。何も、悪くない」
「だよな」
そう言ってデュースは、俺のことを一度抱きしめると、頭をぽんぽんと撫でた。
「大丈夫だ。お前の優しい心は、俺が守ってやるからな。何も、心配いらない」
「……デュース」
「なんだよ、シルバー」
「俺は、たとえ……君に手を差し伸べることが、罪だ、間違いなのだと。人間界の一部だけでなく、はざまの世界で言われたとしても。それでも、俺は……君に、同じことを言っただろう」
「……」
デュースは目を丸くして、驚いた表情をしている。
「信じて、くれるか?」
「信じるも何も……。お前はそういう奴だよ、シルバー。……本当に、きれいだ」
俺の肩に頭を預けて、デュースは呟く。その声音は、わずかに震えている、が、その震えが悪いものではないといいと思った。
「綺麗なのは、君の方じゃないのか?」
「そういうことじゃねえっての。ったく」
指と指を絡め合う。デュースの瞳と俺の視線がかち合って、それからまたくちづけた。
今日は、デュースも俺も、無性に互いに触れ合っていたい気分だった。
だが、くちづける間に、一瞬、男の子の言葉が頭をよぎった。
『男と男なのにキスとかする、キモい人たちのこと!』
俺は逡巡したが、次の間にはその記憶を振り払った。……彼の言葉。記憶には、留めておこう。人間界の一部には、そう思う人たちもいる、という知識として。だが、俺がこの場で、彼や村の人々に気遣い遠慮を覚える必要はどこにもない、はずだ。そう、デュースが教えてくれたのだから。
……俺も、デュースのように。もし次があるのなら、大切な人が傷つくだろうと、怒れるように。諭せるように、ならなくては。
強い恋人を前に、まだまだ自分が彼に比べて経験の足りない子どもであることを痛感し、早く成長しなくては、と、感じた。
もっと早く。人間界のことを良いも悪いも、酸いも甘いも覚えて、デュースから頼りにしてもらえるような、一人前にならなくては。
そんなことを考えていると、デュースが俺の額にこつんと自分の額を当てた。
「どした、シルバー。焦った顔して」
「……なんでもない」
「ふーん、そっか。ま、あまり難しく考えるなよ、な。じっくりやってこうぜ……、まだ、時間はたっぷりあるんだから」
「不思議だな、君は。俺の考えてることを、まるで見通したようなことを言う」
「不思議だろ。なんせ、魂が繋がってるからな。お前の考えてること、時々お見通しなんだ」
ああそういうことか、と俺が笑えば、デュースも笑う。やっと笑ってくれたな、と言って。
「俺は、そんなに笑っていなかったか」
「昨日、僕が宣伝から帰ってから、ずっと笑ってなかった。何があったのかと思ってたけど、今日のことで腑に落ちたよ」
そうか。そうだったのか。デュースには、何もかも分かってしまっていたんだな。
「な、シルバー。お前が笑えば、僕も笑うよ。この関係を、悪いことだなんて言わせやしない。お前が僕の隣にいてくれる限り、ずっとな」
「……そう、だな。俺も、そうしたい」
だが、今日のところは、もうこの話はやめにしようと俺が言って、デュースの身体をベッドへと押し倒す。そうすればデュースは俺の手を取って、頬に摺り寄せさせた。
「ん。悪いことがあった分、いっぱい甘やかして、可愛がってくれるんだろ?」
「ああ。君の仰せのままに。……俺もまだ、君と触れ合うことを、許されていたいからな」
そうして2人、笑い合って、まるで悪だくみをしているようだなと、じゃれあうように睦み始める。
村での思い出は苦いものとなったが、それでも、デュースの持つ強さと、悪意に晒されたときの俺たちの気持ちを改めて確認できたことは良かったことなのだろうと、俺はこの苦みさえも糧にすることに決めるのだった。
きっと俺よりも苦い思いをたくさん抱えているだろう、デュースの傍に立つための糧に。
デュースの隣に、立ち続けているための、その糧に。
*おしまい
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