*含まれる特殊設定
・シルデュ(付き合ってる恋人設定)
・シルバーひとり部屋設定
・ちょっとだけえっちな雰囲気のいちゃラブ(※R指定するほどではない)
・男監督生(ユウ)の存在
・「デュース・スペードの独白」のアンサーのひとつとなっています。こういう展開もあるかもね、というお話なので、もし以前のお話から色々想像してくださった方がいたらそちらもアンサーのひとつなのだとしてお考えください。
・「デュース・スペードの独白」の続きとなっていますが、内容をガッツリ引用しているので前作を読まなくても読めるかと思います。
・以上大丈夫な方はスクロールでどうぞ↓
「僕はシルバー先輩が大好きだ。どのくらい大好きかっていうと、えっと、その……たくさんだ! とにかく、たくさん。今日はなんで僕がそんなに先輩のこと好きなのか、聞いてもらおうと思ってる。……いい、よな? ありがとう、お前ならそう言ってくれると思った! じゃあ、始めよう」
……偶然にも通りがかった森の中で見つけたのは、ちょうどいい岩の上に置いた大きなヒヨコのぬいぐるみに対して、そんなことを語りかけるデュースの姿だった。
ヒヨコに話しかけるデュースの口調は、よく耳に馴染んだものだ。どうやら、あのヒヨコを親友である監督生に見立てているらしい。……なぜ本人に直接相談しないのかの疑問は残るが、まあ、監督生も忙しい身だ。アイツも、大事な人を自分の都合で煩わせたくはないのだろう。
それにしても、なぜ森の中なのだろうか。俺とのことは、人に聞かれたくない想いであったりするのだろうか……。
心に多少の不安を覚え、俺は、恋人であるデュースの心に懸念があるなら知っておくべきだと、その場に留まることを決めた。隠していたデュースの胸の内を、知るために。
「それで、ええと。まだ終わりじゃないぞ! 話したいことはたくさんあるんだ。この際だから全部ぶちまけちまおうと思ってる。まず、僕は単純だってよく言われるけど、常に素直ってわけじゃない。嘘つくことも、いじけることだってある。前に話した通り、昔の悪いクセが出ちまうことだってあるんだ。でも、先輩の前ではいつでも素直になれる。素直で頑張れるいい子って感じの……先輩の傍にいると、好きな自分になれるんだ」
ヒヨコに対するデュースの相談は、次々と続いていく。だが、その内容はどうやら悪いものではないようだ。デュースが、俺といると自分を好きになれると言ってくれることは、嬉しい。デュースは、常日頃、自己肯定感があまり高くないというか、要領が悪く、馬鹿をやるまで失敗に気づかない自分のことが嫌いだと言ってみせるところがあって、心配していた。自分のことを嫌っていては、自分を鍛えるための努力もうまくいきはしないだろう、と。嫌いなもののために努力できる人間は、そう多くないのだから。だから、デュースが、俺の言動で己の持つ良さを見直してくれているのなら、本当に嬉しいことだ。
「それが嬉しいって伝えると、先輩は『俺の力なんて些細なものだ。お前の努力の賜物だ』って言いながら、それでも嬉しそうに優しく笑って、そっと頭を撫でてくれるんだ。な、恰好良いだろ、僕の先輩は。……なんて、へへっ、調子に乗り過ぎたかもな」
おや。これは意外なことだ。デュースはあまり、俺のことを「自分のものだ」とは言ってはくれない。俺としては、もっと特別な立場であることの自覚を持ってもらいたいのだが。ひょっとして、こうして裏ではこっそりと主張していたのだろうか? それならば、とてもいじらしいことだ。
……それにしても。単純な話、好きな子に恰好いいと思い、そう言ってもらえることは、こんなにも嬉しいものなのだな。
「だけど、言われるんだ、最近。『もっとそういうことを言っていい』って。シルバー先輩は誠実な人だから、何もかもを差し置いて、僕が常に何よりも一番だとは言ってやれない、って申し訳なさそうに言う。だけど、それでも、心の一部は確かに僕のものになっているんだって、だから、シルバー先輩は僕のものだって胸張っていいんだって、僕が不安なときはいつでも言ってくれるんだ」
……良かった。デュースの胸の内の不安は、確かに俺の言葉で軽減することができていたようだ。俺は、確かに大切なものが多いから、恋人という立場であるデュースをいつでも優先してはやれない。それでも、そうした俺の心を理解してくれていることを、ありがたいと思う。
「恰好良いだけじゃなくて、優しいなんて、僕には勿体ないよな。それに、強いし、逞しい。お父さん想いな人で、芯が強くて、本当になんで僕なんかを目に留めてくれたのか……って、はは。シルバー先輩を褒めるのは楽しくて、つい止まらなくなっちまうな。だって本当に大好きだから、どんなところが好きなのか、たくさん言いたくなっちまうんだ」
『僕なんか』ではないだろう……まったく。それだけ素直に好意を伝えられて、返さないことがあるものか。お前の惚気話を聞いているこちらの身にもなってもらいたいものだな。……なんだかだんだんと、照れくさくなってきてしまったぞ。これをそのまま監督生に話すつもりだったのかと思えば、尚更のことだ。
「……あ! でも、僕のだからな! 確かに魅力的な人だけど、取らないでくれよ!? ……お前と争うことになったら、僕、負けちまうかもしれないし……。も、もちろん、最後まで負けようとするつもりなんてないからな!? でも、お前のことだって僕は好きだから……。最後の最後には、二人が幸せなら、って、身を引いちまうかもしれないし……」
今度は何を言い出したかと思えば。俺はデュースのことしかそういった意味では目に入れていないというのに……。アイツは不安症なところがあるな。
「……ダメだ! こういうことを想像するのは、先輩やユウを信頼してないみたいで良くない! そうだよな! それに、シルバー先輩にも、お前しか目に入れてない、いらない心配をするな、ってよく釘を刺されるし……。うう。僕、実際誰かを好きになって、付き合ったりするのなんか、初めてのことだから、自分がこんなにヤキモチ妬きの不安症だってこと、知らなかったんだ。どっちかっていうと、恋愛ドラマの似たようなシーンなんか見て、好きになった人が好きって言ってくれるならそれでいいだろ、もっと信じてやればいいのにって思ってるくらいだったのに……。今さらになって、ドラマのシーンがよく分かる。いくら好きな人が好きって言ってくれたからって、それでも気になるもんは気になるし、不安なものは不安なんだって」
言葉でも態度でも、お前が特別なのだと伝えてきたつもりだったが……。デュースはまだ、不安を覚えているみたいだな。それならば。これからは、これまで以上に伝えてやるとしよう。お前だけが特別に、新たに俺の選んだ、ただひとりの人なのだ、と。
「そうだ、シルバー先輩ってモテるんだよ。街を一緒に歩いてると、シルバー先輩のこと見てる女の子や、声かけてくる女の子の多いこと、多いこと……。……僕とのデート中なのに。でも、シルバー先輩ってさ。意外なことに、結構女の子のあしらい方に慣れてるんだよな。本人が言うには、『一年生の頃は苦労した。友人や家族にうまい断り方を相談して、身に着けた』って言ってたけど……。なんか、大人っぽいよな。そういうとこ。僕の方はまだ、ちっともそういうシルバー先輩目当ての女の子相手にすらうまく対応できないのに。なんだかいつも、僕ばっかり背伸びしてるみたいな気分になるんだよな」
確かに、二人で出かけた際、女性によく声をかけられることに関しては、申し訳ないと思っているが……。だが、どちらかといえばお前が目当ての女性の方が多いと思っているぞ、俺は。お前は見るからに可愛らしくて、魅力的だからな。それに……。
「……あ、でも、これに関しては僕もおあいこか。正直、女の子に声かけられたあとは、僕よりシルバー先輩の方がちょっと機嫌悪いし……。なんでかって、まあ、それは、その、察しの通り僕が女の子相手にうまく話せず上がっちまうから、シルバー先輩がそれを見てむすっとしちまうんだ」
ああ、その通りだ。女性相手にすぐ緊張してしまうデュースを見て、好意的な態度になる女性が今までどれだけいたことか。お前は、自分が女性から親しみやすさを持たれ、可愛らしく思われがちなのを分かっていないんだ。
「……正直なこと言っていいか? ちょっと嬉しい。悪いとは思ってるんだぞ!? でも、先輩も僕にヤキモチとか妬いてくれるんだって思うと、めちゃくちゃ嬉しいじゃねえか!! だろ!? そう思うだろ!? あ、わ、悪い! ちょっとはしゃぎすぎたな。で、えっと……。まあ、とにかく嬉しかったんだよ」
今この場で、俺が悋気を起こしていることを伝えに行ったらどんな顔をするだろうな、アイツは。
「あ、そうだ。話は変わるが、この間、僕、食堂でシルバー先輩と相席したんだ。それで、一緒に飯食ってて、僕、ふとシルバー先輩見ててさ。食べ物食べてる口を見てたら、キス……したくなって。で、じっと見てたら、それが先輩にもバレたみたいで、先輩はふって笑いながら、『今は食事中だから、あとでな』って。僕、もう恥ずかしくて、その場を逃げ出すように急いでメシをかき込んで……」
ああ、あのときの話か。あまりにもじっと物欲しそうに口元を見ているから、すぐに分かったんだ。はじめは料理がひとくち欲しいのかと思っていたが、料理には興味がなさそうだったからな。
「と思ったらさ、その後。午後、移動教室中に廊下ですれ違ったとき、物陰へ急に引っ張りこまれてさ。……抱きしめて、キス、されたんだ。それだけして、すぐに先輩は『じゃあな、約束は果たしたぞ』って立ち去っていっちまって……」
確かに、そのような行動はした。だが、それに何か不満でもあったのだろうか? やはり、教室や廊下では嫌だった、とか?
「ヤバいよな? もう、なんていうか、何がヤバイって、何から何まで完璧っていうか、恰好よすぎてヤバくないか? 本当に僕、この人の恋人でいいのか? だって、妬いてくれるし、好きって言ってくれるし、キ、キス……してくれるし、抱きしめてくれるし、なんかもう、足りないところとかなくないか!? 勉強を教えてくれることもあるし、休日の運動にも付き合ってくれることあるし、頑張ってたら褒めてくれるし、頭撫でてくれるし……。僕、何もかも貰いっぱなしで……! いったいこれからどうやって、あの人に何を返したらいいんだ!?」
ひたすら話を聞いていたが、デュース、お前という奴は……。
「え、結局どれが一番の悩みなんだ、って……。だから、シルバー先輩が恰好良すぎて、完璧で、僕とつりあってないんじゃないかって思って、他の人の方がいいんじゃないかって、つい不安になって、それでも自分にできることはやりたくて、もらったものだけでも返したくって……。……悪い、あまり、考えがまとまってないのかもしれない」
デュースがそこまで口にしたところで、俺は姿を現すことに決めた。パキリ、と踏んだ足元の枝が折れる音がした。
「えっ、誰かいるのか!?」
振り向いたデュースは、俺のことを見つめる。俺はどうにも顔を真正面から見ていられず、手で顔を覆いながらデュースに向かっていった。
「お前というやつは……」
「え、ど、どっから聞いてたんですかっ!?」
すたすたと早足になり、デュースに近づいていく。後ずさりしそうなデュースの手首を掴み、そのまま抱きしめた。デュースの耳元で囁く。
「どうしていつも、そうなんだ」
「そ、そうって……?」
「……いつも、気を抜いたとき、思いがけないときに、突然、可愛らしさを見せつけてくる」
「か、可愛くないですっ」
抱きしめたデュースの耳に息がかかるのもかまわないまま、はあ、と溜め息をついた。
「可愛いだろう。俺のことが好きでしょうがない、と鳥の雛のぬいぐるみに語りかけてるお前の、何が可愛くないんだ」
「それはその……っ!!」
抱きしめる腕に、力を籠める。
「……困った。今日はまだ、これからいくつか用事があるというのに。お前をこのまま、この腕から離したくない」
「そんなこと、言われたら、僕だって……」
デュースは顔を上げ、俺の目を見つめてくる。そのまま顔を近づけて、キスをした。唇を付け、はむはむと食み、好きなように甘いキスを貪る。とろんとして潤むデュースの目を見つめて、口内へと舌を進入させた。デュースは、俺のやることをただ黙って受け入れている。……このまま、食べてしまいたいな……。
「は……デュース」
デュースの唇から引く透明な糸を親指で拭ってやる。
「は、い」
されるがままになっているデュースの耳元に、欲のままにささやいた。
「……今夜、俺の部屋に来い」
「……はい」
素直に頷くデュースを、もう一度ぎゅっと抱きしめて、ぽんぽんと頭を撫で、その場を立ち去っていく。少しして、背後から「な、恰好いいだろ」と小さく呟く声が聞こえて、胸がぎゅっと締め付けられるような感覚がした。
――それから、夜。デュースが部屋を訪ねてくるなり、ベッドに押し倒す。
「昼間、お前は……俺と釣り合わないだとか、何を返せているのかだとか、悩んでいると言ったな。その不安も悩みもすべて、今宵、『お前でなければならない』のだと、塗り替えてやろう。……覚悟はいいな?」
「は、ひゃ、はい……っ」
それから俺は一晩中、いかに俺がデュースを愛しているのかをあらゆる方法で身体に叩き込んでやることにした。耳、唇、頬、首筋、背中、手首、指。すべての箇所にキスを落としては、愛をささやく。
「ほら、教えた通りに言ってみろ。お前が今、こうしてベッドの上でキスをされているのは、どうしてだ?」
「せ、先輩が、僕のこと、好き、だからです……っ」
「どの先輩が、だ? デュース」
「シルバー、せんぱい……っ」
「ふっ、そうだ。よくできたな、いい子だ。いい子には……褒美が必要だな。さあ、どうしてほしい? デュース。今宵の俺は、お前の望みをすべて叶えよう」
「な、なんで、そんな……」
「……何故、だと? もう忘れてしまったのか? ほら、言ってみろ。もう一度、教えた通りに」
「せ、先輩が……っ」
「シルバー」
「シルバー先輩、が、僕のこと、好きだから、です……っ」
「ああ、……そうだ。不安になど、なる必要はない。悩みなど、持たなくていい。さあ、もう一度……」
「ん……っ」
そうして、またキスを落とす。それから、俺はデュースの片耳を塞いで、反対側の耳から再び、愛の言葉をささやいた。
「デュース。好きだ、可愛い。お前は、よく頑張っている」
「やっ、やめ、先輩、これ、これ頭に響いて、恥ずかし……っ」
「……本当にやめて欲しいか? そんなはず、ないよな。お前は俺のことが、好きすぎてどうしようもないのだから」
制止しようとするデュースの手に指を絡め、そっとシーツに押し付ける。
「せ、せんぱい……」
「……『シルバー』だろう? ほら、どうした? もう、言うべき言葉を忘れてしまったか?」
「し、るばー、せんぱい……」
「ふっ。そんな可愛らしい顔をしなくても……すべて、与えてやる。お前が望む限りのもの、すべてを、な」
そうして、また唾液で艶めいた唇にくちづける。デュースの全身に愛を叩き込んでやるには、あまりにも短い夜の始まりだった。
*おしまい
※コメントは最大1500文字、10回まで送信できます