・シルデュにメルヘンチックハロウィンしてほしかっただけなので、わりとなんでもありな展開です。正直ハロウィン全然関係ない。
・不思議の国のアリスのワンダーランドを基本的モチーフにしています(それっぽいキャラも出ます)が、それ以外もいろいろまぜこぜです。
・デュースがナチュラルにシルバーのユニーク魔法について知っています。
以上大丈夫な方はスクロール↓
今日は、俺が見た特別な夢の話をしよう。とは言っても、何、危ないことはない。先に結末を告げてしまえば、ささやかな片思いをしていた俺のことを見かねた妖精たちの起こした、ほんの不思議な悪戯で見ることになった夢だったんだ。だから、安心して聞いてもらいたい。では、そろそろ本筋へ入ろうか。
――ある夜、不思議な夢を見た。
「今宵は特別な舞台にご招待……」
誰ともつかない男の声で、口上が述べられる。
特別な舞台とはなんのことだ、と尋ねようとしても、身体の自由が利かない。
「VIPである貴方様は、入口そちらのラビット・ホールから! どうぞお入りください!」
紺色のシルクハットを被った見知らぬ男に突き飛ばされ、そして。深い深い、穴ぐらの底へと落ちていった。
【星のワルツ】
穴の底に落ちると、そこにはのどかな風景が広がっていた。小さな畑、小さな可愛らしい家。傍を流れる小川を覗き見れば、自分の顔と銀髪、それからナイトレイブンカレッジの制服が映る。どうやら、俺は先ほどからこの夢の中で制服を着ていたようだ。
辺りの様子を伺っていると、小さな家のドアがバタンと開いて、誰かが姿を現した。
「あれは……デュース?」
間違いようもない、あれはデュースだ。以前、ホワイトラビット・フェスに参加したときに着た白うさぎの服装をしてはいるが……。
デュースは俺に気づいていないのか、きょろきょろと辺りを見回すなり、パタパタと走り去っていこうとする。
「待ってくれ、お前はこの夢について何か知っているのか?」
ひとまずせっかく会えたのだからと、デュースのことを追いかける。それは、デュースだから、だけが理由じゃない。夢の主を現す白い鳥が、俺の傍だけじゃなく、アイツの傍にも飛んでいたからだ。この夢は、俺とアイツが同時に見ている夢、なのだろうか?
デュースのことを追いかけているうちに、何故か、いきなり壁にぶつかった。
「痛っ! すまない、ぶつかってしまった」
「いえいえ、こちらも前を見ていなかったものですから」
返事が返ってきたが、人影はない。よくよく辺りを見渡せば、ドアノブに顔がついて、喋っていた。
「ええと……ドアノブ。今、俺に返事をしたのは貴方か?」
「ええ、ええ、そうですよ。それが何か?」
……頭が痛くなりそうだ。今日の夢はなんとも不可思議で、度し難い。そうだ、いっそ夢から覚めてしまおうかと、俺は自分の頭を殴った。それでも、この夢からは覚められない。一体、何が起こっているんだ?
「何をするんです! 暴力はいけません、たとえ自分に向けてのものでも」
「すまない、夢から覚めようと思って……」
「この夢から覚めたいのですか?」
「……ああ。なんだか、いつもの夢ではない感じがするからな」
ドアノブと問答を続けると、ふーむ、とドアノブは言った。
「この夢はそう危険なものではないのだから、そう急くことはないのですがね。もし貴方が夢から本当に覚めたいのなら、宮殿へ向かうとよろしい」
「宮殿? ここには宮殿があるのか?」
「ええ、宮殿です。月のではなく星の宮殿ですから、お間違えのないように!」
「分かった、ありがとう。とりあえず、そこへ向かえばいいんだな。どっちへ行ったら宮殿に行けるんだ?」
「この私の先に」
「そうか……ありがとう」
「いえ、礼儀正しい方は好きですよ」
ドアノブに礼を言って、ひとまず歩き出そうとする。ふと、先ほど見かけたデュースのことが気にかかった。
「なあ。デュースを知らないか? ネイビーの髪をした青年で……先ほどは……ええと、白うさぎの耳をつけていた」
「白うさぎ! でしたら、ちょっとまずいかもしれませんね。白うさぎには誰も追いつけない」
「追いつけない?」
「もしその方と合流したければ、先に目的地へ辿り着く必要があります。さあさあ、お急ぎを。貴方なら、私の自慢の鼻を掴んでもよろしい」
「ありがとう。では、お言葉に甘えて」
改めて礼を言い、ドアノブに手をかける。手首をひねりドアを開けると、ドアの先からは水が流れ込んできた。
「……水泳か。いいだろう」
制服ではなく運動着であるなら、まだ泳ぎやすかったのだが、と思えば、いつの間にか俺の服は運動着になっていた。
水の中を泳ぎ切って、陸のような場所へ上がる。服を脱いで水を絞っていると、ああそんなんじゃダメダメと横から告げられた。……喋る鳥だ。
「服を乾かすには、水の中で走らなきゃ」
「しかし、それでは服が乾かないだろう」
「コーカス・レースに参加すれば、乾くさ」
ちらりとそちらの方を見れば、水の中でグルグルと同じ場所を走り回っている者たちが見える。あれが、コーカス・レースなのだろうか?
「……すまない。俺には、探している人がいるんだ。だから、非常に残念だが君たちのレースには付き合えない」
「探している、というと?」
「白うさぎの耳をつけた青年だ。あとは、星の宮殿への行き方も探している」
「白うさぎならあっちにいるよ! 助かった、アイツをなんとかしてくれ。ずっと泣いていて、ここらの水かさが増しているんだ。これじゃ、コーカス・レースをやったって乾きもしないよ」
……そのレースではどちらにせよ乾くこともないのだが、と思う言葉はぐっとこらえて、分かった、ありがとうと告げる。そういえばこの夢では服装は自由にできるのだったなと思い、ひとまず寮服に着替えておいた。
白うさぎがいると言われた方に向かってみると、そこにデュースはいた。座り込んで、泣いていた。
「どうして俺はあんなに馬鹿だったんだろう……」
うさぎのように両手を目につけて、泣いていた。だから、声をかけた。
「デュース」
「シルバー……先輩?」
顔をあげたデュースは、うさぎのように目を真っ赤にしていた。
「そう泣くな、何があったんだ?」
デュースに手を差し出し、立ち上がらせる。すると、デュースは答えた。
「分からないんです。今日、部活も勉強も終わって、よし寝るぞーって思ってベッドに入ったら、なんか、変な夢見て。格好も、なぜかこんなだし……。家に『星の宮殿に向かえ』ってメモがあったから、とりあえず走りだしたはいいんですけど、ここに来たら、昔のことを思い出して、なんだかとても悲しくなっちまって」
「そうだったのか。俺も、星の宮殿に向かっていたところだ。良ければ一緒に行かないか?」
「そうですね! 夢を渡れる先輩がいるなら、この変な夢から脱出できるかもしれないし……」
そういえば、そうだな。俺のユニーク魔法を使えば、この夢からは出ていけるかもしれない。
「やってみよう。捕まっていろ」
「はい!」
「いつか会った人に、いずれ会う人に……『同じ夢を見よう(ミート・イン・ア・ドリーム)』」
そうして、夢を渡ってみた、が。夢の回廊から落ちてきたのは……。
「……さっきと同じ場所、ですね」
「そう、だな。着地点が水たまりで助かった、と言ったところか……」
どうやら、この夢からは逃れられないらしい。先に進んで、星の宮殿という場所へ辿り着くことでしか、この夢からは覚められないのだろうと悟る。
「仕方ない、星の宮殿を探すとするか」
「そうですね! どっちに向かえばいいか、知っている人がいるといいんですけど」
デュースがそんなことを呟いたとき、足元に何か、毛玉のついたはい虫のような生き物たちが集まってきて、矢印を作った。
「なるほど、あっちに行けばいいみたいですね!」
「……よく分からないが、道案内をしてくれたのか? ありがとう」
不思議な生き物に別れを告げ、次の場所へと進んでいく。
次の場所は、鬱蒼とした森だった。看板が立ててある。『あっち 忘却の森』『そっち 涙の海』
どうやら俺たちは『涙の海』と呼ばれる場所から来たらしい。そして、次に向かうべくは『忘却の森』のようだ。
涙の海でデュースが涙を浮かべていたことからすると、忘却の森では何が起こるか、分かりそうなものだが……。
「先輩? どうしたんですか?」
「そう、だな。森の中ははぐれないように、手を繋いでいこう」
「分かりました!」
デュースは、俺の手をぎゅっと握る。へへ、なんだか照れくさいですねと笑う姿が、可愛らしいなと思った。
「進んでみよう」
俺たちは忘却の森の中へ入っていく。すると、不思議なことに、一歩進む度に、自分が誰だか分からなくなっていった。
「君は、誰だ? どうして俺と手を繋いでいる?」
「分からないな。アンタこそ誰だ?」
「俺は……俺も、俺が誰だか分からないな」
「なんだ、分からない同士で手を繋いでいたのか。それじゃしょうがないな。森で一人なのが心細かったんだろう」
「それもそうだな。このまま進むとしよう」
森の中を歩いて行く。
「それにしても、綺麗な人だな。特に、目がとても綺麗だ。それになんと言っても、この手だ。ずいぶん硬くて、よっぽどのことをしてきたんだろう」
「それを言うのなら、君だって綺麗な人だ。同じように褒めてくれた目はもちろん、この手も滑らかで、とても綺麗だ。正直なところ、俺は今隣にいるのが君で幸運だったと思っている」
「そんなの、こっちだって」
お互いなんだか照れくさくなって、さあ森を抜けよう、と足早に進んでいると、やがて忘却の森の外に辿り着いた。
そして、どこかに取り上げられていた俺たちの記憶はあっさりと帰ってくる。
「……なんかすごく照れくさいことを言った気がします……」
「お互い様だ……さあ、進むぞ」
「はい……」
忘却の森を抜けて辿り着いたのは、薔薇の迷路だった。
「あっ、これなら僕、得意ですよ。……いや、得意というわけではないかもしれないですけど……。でも、ハーツラビュル寮の庭にあるやつに似てるんで、慣れてる気がします!」
「迷路か。まあ、行き止まりでも引き返せばいいだけだ。進んでみよう」
薔薇の迷路に足を踏み入れ、さくさくと芝生を踏んで歩く。デュースが、この薔薇ペンキ塗りかけだな、と言っているのを見て、何故薔薇にペンキを塗る必要があるのかと改めて尋ねたくなったが、やめた。ハーツラビュル寮の伝統らしいからな。……よその伝統やマナーに口を出すのは、失礼に当たる。
「いてっ」
途中、迷路の攻略法だと言って壁に片手をつきながら歩いていたデュースが、怪我をしてしまった。
「大丈夫か? ああ、指にトゲが刺さってしまったのだな」
「またドジっちまいました、はは……」
愛想笑いをするデュースに、貸してみろ、と告げ、その指からそっと刺さったトゲを抜く。そしてその指にくちづけた。
「あ、あの、先輩?」
「……」
軽く指をちゅ、と吸い、中にもうトゲが入っていないことを確認すると、口を離した。
「もうトゲはない。これで大丈夫だ」
「あ……ありがとう、ございます」
それから俺たちは薔薇の迷路をしばらく歩いて、ようやく城のような場所へと辿りついた。
「これが星の宮殿、ですかね?」
「そのようだな」
星の宮殿と言う名の通り、宮殿にはあちこちに星図や星座のようなものがあしらわれている。入口の門を開けようとすると、鍵がかかっていた。
「鍵がかかっているな。開けられないだろうか」
「こっちに、なんか書いてありますよ」
傍に置いてある石碑には、こう書いてある。
『ゲートを開けるには、うさぎが2匹必要』
「うさぎが2匹、だそうだ。……これでいいか?」
この夢では服装を自由にできるのだったことを思い出し、俺もデュースと同じくホワイトラビット・フェスの時に着せてもらった白うさぎの衣装に着替える。すると、門は驚くほど簡単に開いた。
「簡単な謎解きだ。まるでこの夢、僕たちを歓迎しているみたいですね」
「ああ。道中も、さほど危険なことはなかったしな……」
だが油断するな、何が待っているか分からないと言って、デュースと共に星の宮殿へと続く階段を登っていく。
階段を上った先では、看板が立てられていた。
『ドレスコード:舞踏会』
「ドレスコード?」
「特別な場所へ参加するときの、衣装のルールだな。……俺は、舞踏会に参加する服など、これくらいしか……」
そう言って、花の街に赴いたときに用意してもらった、舞踏会用の衣装に着替える。仮面まできちんと準備されているな。
「さっきから思ってたけど、シルバー先輩のそれ、どうやってるんですか……? 僕、服変えられないんですけど……」
「そうなのか……困ったな」
デュースはどうやら、俺と違って自力では服が変えられないらしい。ひょっとしたらその格好でも大丈夫かもしれないし、ひとまず中に入ってみよう、とデュースを連れて星の宮殿の中へと入る。
ドレスコードの看板を過ぎると、受付のような場所があった。そこに、誰ともつかない男が立っている。
「これはこれはお客様。招待状はお持ちで?」
どこかで聞いたような男の声がする。これは、ひょっとして俺が穴に落ちる前に聞いた男の声じゃないだろうか。
「招待状は……持っていないが、なぜか、VIPだとかなんだとか言われていた」
「ああ、貴方様でしたか! ささ、こちらへ」
「ま、待ってくれ。デュースは……」
どこかへ連れていかれそうになって、咄嗟に抵抗する。すると、デュース様はあちらでお召し替えをしていただきます、ご心配なく、あとでダンスホールで会えますよ、と言われたので、ひとまず大人しく連れていかれることにした。
俺は軽い身体チェックが済むと、すぐにダンスホールへと放り出された。
煌びやかなホールの端には、シャンメリーの入ったグラスや、軽食のビュッフェなどが置いてある。ただ、不思議なのは、他の招待客のような人物たちや、その料理を管理提供しているコック、シャンメリーを配る係のボーイなども見当たらず、ただホールには俺ひとりの足音がコツコツと響くばかりであることだ。
今のところ食事には興味がないからと進んでいこうとしたら、どこからかシャンメリーの一杯だけでもいかがですか、と声をかけられる。
振り向いたが、誰もいない。仕方ないので、グラスを一杯持っていくことにした。
ダンスホールの奥の方へ進んでいくと、星空が煌めくテラスに、デュースはいた。いつかの星月夜に見た、美しい装い――星送りの衣を身に纏って。
「あ、シルバー先輩……」
「デュース。良かった、無事だったか」
「はい。着替えさせられはしましたけど」
デュースの座るテーブルセットの向かいに座る。デュースもシャンメリーを一杯もらってきていたようなので、ひとまず乾杯でもするか、と声をかけた。それが自然なことのような気がしたから。
「「乾杯」」
二人の声が重なって、くっとシャンメリーを飲み干す。今まで歩いてきた身体に、冷たいソーダの感覚が喉を潤した。そして、不思議なことに俺はその星空を映したシャンメリーが喉を通った瞬間に、この夢を終わらせる方法が分かった。ああ、そうか。これは俺のために作られた舞台。俺のための舞台だったのだな。
ずっと覚めようとしていたのに、今では少しだけ、この夢、このひとときを終わらせてしまうのが勿体ないと思いながらも、俺はその行動を取った。
「デュース」
椅子から立ち上がり、デュースの前に立ち、軽くお辞儀をして手を差し出す。
「俺と、一曲踊っていただけないか?」
デュースは驚いた顔をしていたが、向こうも何かを感じ取っていたのだろう。僕で良ければ、喜んで、と俺の手を取ってくれた。
俺たちがダンスホールの中央へ出て、二人で踊り始めると、音楽隊もないというのに、どこからか音楽が流れてきた。デュースはきちんとワルツのステップが踏めるだろうかと心配ではあったが、これは、俺たちにとても優しい夢だ。問題なく、俺たちは音楽に合わせてステップを踏むことができた。
デュースと見つめ合い、二人、踊り続ける。やがて曲の切れ目に合わせてダンスを終えると、やはり誰もいないのにどこからか拍手喝采が聞こえてきた。
「へへっ。……なんだか、夢みたいだな」
「まあ、夢だからな」
踊り終えたデュースの頬が、たくさん動いたからなのか、それとも俺とこのような時間を過ごしてくれたからなのか、赤く染まっているのを見て、俺は改めて、願いをひとつ申し出たくなり、デュースの前にひざまずいて、手を取った。
「先輩?」
「改めて、この夢の中だけでもいい、ひとつ願いたい。俺は、デュース。お前のことが――」
高まった気持ちを告げようとした、そのとき。ジリリリリと無機質な音が鳴り響き、俺は――俺たちは、甘やかなひとときの夢から覚めた。
「何も、あのような瞬間に覚めなくとも……」
夢から覚めるための目的は達したとはいえ、最後まで言わせて欲しかったと思うのも事実だ。だが、すぐに気分を切り替える。
続きは夢ではなく、現実で言え、ということなのだろう。何故なら、あの夢で十分に――デュースの気持ちは、伝えてもらったから。
「さて……早く、会いに行ってやらなくてはな」
ベッドから起き上がり、朝の身支度をする。今日、初めて会ったデュースは一体どんな顔をしているだろうかと、会うのがとても楽しみでいた。
*おしまい
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