※ドルパロ(ギャラリーもしくは小説本棚に設定が置いてあるアイドルパロディの世界線のシルデュです。そちらを読まないと意味が分からないことがあるかもしれません)
※時系列:ドーム後、付き合った後、交際宣言(この話)
※パロディにつき一部呼び名変更あり:リドル寮長→事務所長、トレイ先輩→トレイさん、など)
※ちょっとサブCP(リドエー)要素あります
※モブが出張ります。
※展開に夢いっぱいです。
↓以上すべて大丈夫な方はスクロール
――それはまるで、映画のワンシーンのようで。
赤いドレスを着た女の人が、シルバー先輩の耳元で何かをささやく。それから、シルバー先輩の頬に手を添えて、吸い寄せられるようにキスをした。シルバー先輩は、はじめは眉を寄せながらも、結局、そんな女の人のキスに、熱く、熱く応える。
僕はとてもその光景を見ていられなくて、その場から黙って立ち去った。
事の始まりは、とあるお菓子のCM。以前、僕たちが以前、セクシー派とキュート派に分かれてやったチョコレートのCMの評判が良かったそうで、第二弾を作ることになったんだ。ただ、その内容が、いわゆる『夢のシチュエーション』系で。
僕たちは、実際の女優さんを相手に架空の女の子と夢みたいなシチュエーションを再現するというコンセプトのCMを撮ることになったんだ。
今回のCMテーマは「キス」だそうで、僕の方は、棒状のお菓子を相手役の女の子に食べてる途中で渡されて、『これ、間接キスじゃないか?』って言ったあと、照れながら相手役の女の子のほっぺにキスをして笑うというCM内容だ。とはいえ、キスはするフリだけでいいと言われてる。
僕の方は、問題なかった。いや、女優さん相手にキスシーンを演じることに、照れてしまうって問題が、あったのはあったけど……。
撮影の様子を見ているシルバー先輩に『何、俺以外の奴にデレデレしてるんだ?』と軽く睨まれてみれば、照れもどこかへ行ってしまった。
何度か撮影を繰り返して、OKが出る。スタジオのスタッフさんからも「デュースくん、ほんとに照れてるみたいで可愛かったよ!」と言ってもらえて、評判は良かったみたいだ。
セットを入れ替えて、次はシルバー先輩の撮影を僕が見守る番。シルバー先輩の方のCMはかなりセクシーで、赤いドレスを身に纏った大人の女の人に、ひとくちサイズの四角いチョコレートトリュフを食べさせられて、そのままキスをされるというもの。角度を工夫して、実際にキスしなくてもしている風に見せかけるそうだけれど、その撮影のときに事件は起きた。
赤いドレスを着た女優さんが、シルバー先輩の耳元で何かをささやく。それから、シルバー先輩の口にチョコレートを食べさせて、吸い寄せられるようにキスをした。……あれ、本当にキスしてる。スタッフさんたちは静かにどよめきながらも、いい画だと監督が呟いたのを聞いて撮影を続ける。シルバー先輩は、はじめは眉を寄せて不満そうにしていたものの、やがて目を閉じ、女優さんの頬に手を添えて、自分から、熱く、熱く応えるようなキスをした。……ああ、きっと、とてもセクシーでいい画になるんだろうな。
だけど、僕はとてもその光景を見ていられなくて、その場から黙って立ち去った。
行く当てもなく、スタジオの屋上でさ迷う。何やってるんだ、僕? 戻って、CMの出来を確認しなくちゃならないのに、それがどうしても嫌だ。するとすぐ後ろから、焦って追いかけてくる声がした。
「デュース!」
「……シルバー、先輩」
「良かった……ここにいたのか」
はあ、と珍しく息を切らして、シルバー先輩は僕を探しに来てくれたみたいだ。……それが嬉しいけど、やっぱりさっきの光景を思い出して、胸がつきりと痛んだ。
「すいません、外の風に当たりたくなっちゃって……。CMの確認するんですよね、スタジオ戻ります」
「デュース……」
シルバー先輩はぎゅっと僕を抱きしめる。
「え、ちょ、ちょっと! シルバー先輩、ここ外だし、スタジオですよ!?」
「かまうものか……! お前を傷つけてまで、隠していたいことではない!」
「お、落ち着いてください、シルバー先輩!」
ひとまずシルバー先輩を落ち着かせ、腕からは開放してもらう。こんなところ、誰かに見られたりしたら大スキャンダルでローズハート事務所長からも大目玉だ。
「デュース。これだけは言わせてくれ。あれは、俺の本意ではない。あれはあの女の――」
「――あの女、はちょっとヒドいんじゃない?」
「あなたは……!」
僕たちの背後から姿を現したのは、さっきシルバー先輩とキスシーンを演じていた女優さんだった。それから、もうひとり。このCMの監督だ。
「やっぱり付き合ってたんだねえ、キミたち」
まずい、見られた、バレた……! 僕がどうしようかとテンパっていると、シルバー先輩が僕を庇うように前に出た。
「……俺たちのことが、何か? というか、お二人ともご存知だったのですか? だとしたら、今回のCMの内容はずいぶん意地が悪いと思いますが」
シルバー先輩は監督と女優さんに向けて、敵意丸出しだ。これにはむしろ、僕の方が焦ってしまう。
「ちょっと、シルバー先輩! 監督に喧嘩売ったりしたら、せっかく頑張って撮ったCMがポシャっちゃいますよ!」
「しかし……!」
「親御さんに仕送りして、立派な姿見せるための、大事なお仕事でしょう!?」
そこまで言うとようやくシルバー先輩は息を吐き、いつもの冷静さを取り戻してくれたようだった。
「すいません、このことはどうかご内密にお願いします――!」
「……お願いします」
二人で監督に頭を下げると、すぐに頭上から答えが返ってきた。
「やだね」
「そこをなんとか!」
僕が食い下がると、女優さんが笑った。
「ふふっ、監督。意地悪しないでちゃんと説明してあげてください」
「あ~、そうね。あのね、キミたち。せっかくならさ、キミたち二人でもCMを撮らない?」
「「……えっ?」」
僕たちは、顔を見合わせた。僕たち二人でも、CMを撮る……? つまり、どういうことだ? わけがわからないでいると、女優さんが追加の説明をしてくれる。
「さっきは意地悪をしてごめんなさいね。監督が言いたいのは、つまり、あなたたち二人でも、キスをするCMを撮ったらどうなのか、ってことなのよ」
「僕たち二人で……!?」
「しかし、そんなことをしては――」
「そうだね、キミたちの関係が世間にバレちゃうねえ」
監督は飄々と答える。しかし、その目の奥には鋭い光を宿していた。
「でも、今こそチャンスなんじゃないかな? 同性が好きだとか、そういうカミングアウトをする芸能人が増えている昨今――キミたちも、今、その流れに乗っておくべきだと思う。これ以上、彼のファンが増える前にね」
「彼、って……」
監督はシルバー先輩のことを見つめている。シルバー先輩のファンが、増える前に……?
「シルバーくんね、彼のファンは夢見る女の子が多いね。彼を理想の王子様だと思っていて、いつか迎えに来てくれる……なんて子がね。でも、そういう子ほど、恋人がいた、別に好きな人がいた、彼女や彼氏がいた、なんてことになった途端、自分の夢を裏切られたって思いがちだからね」
「それは……」
シルバー先輩はうつむく。よくファンレターを難しい顔で読んでいることがあるし、何か、思い当たる節も多いんだろう。
「その波が大きくなればなるほど、ね。反響も大きいから。いつかバラすなら、これ以上問題が大きくならない今のうちに、バラしとくべきだと思うよ。ま、キミたちが隠しておきたいなら、CMはこの二本のままで行くけどね。もし、真実を明かしたいって思うなら、もう一本、次の仕事に繋がるようないいのをボクが撮るからね。事務所との相談もあるだろうから、今日はいったん帰っていいよ。次の撮影までに、答えを聞かせてね」
「は……はい、分かりました」
監督は言いたいことだけ言って、さっさと立ち去ってしまう。女優さんは僕に向けて「あまり怒らないであげてね」と言い残して去っていった。
僕は再び、シルバー先輩と顔を見合わせる。
「……なんか、大変なことになっちゃいましたね……」
「ああ……ひとまず、事務所に帰ってリドル事務所長に報告するか」
「はい」
*
「絶対にダメ!」
僕たちが事務所についてリドル事務所長に報告するなり、言われた言葉はそんなものだった。……と、思いきや。
「……と、言いたいところなのだけれどね、本来は。キミたちは、事務所に入るとき目標に掲げた、ドーム公演という目標は果たしてくれた。……今後の展望については、正直、ボクも考えていたんだ。キミたちのことを公に報せるパターンと、公にしないパターンを。そのどちらもに、メリット、デメリット両方はある。まず、公にする場合、もちろん今までの形のファンは減り、ある程度ファンからの信用をなくす。これがデメリットだ。メリットは、今まで獲得できなかったファン層や、新たな仕事を獲得できる可能性がある。公にしない場合は、今と変わらない。ファンは大して減らず、キミたちが裏でいろいろなことを抱えながらやっていくだけだ」
「事務所の方針としては、どの方向でやっていきたいんだ?」
シルバー先輩の言葉に、ローズハート事務所長は答える。
「……キミたちの覚悟と、度胸に任せるよ。どちらの道を選ぶとしても、ハーツラビュル芸能事務所は全力でバックアップする」
こうして、僕たちの選択にすべては任されることになった。
二人で黙って事務所の談話室で考え込んでいると、エースがやってきた。
「あっれ、オレの後輩ユニットじゃん。何どんよりしてるの?」
「エース……」
たった三日しか先輩じゃないだろ、と突っ込む気力にも今はなれない。とても難しい問題が目の前にあるからだ。
「ま、だいたい話は聞いてたけどね。狭い事務所だし。二人はどうしたいの?」
どうしたい、というエースの端的な問いに、シルバー先輩が先に答えた。
「……俺は、正直、関係を明かしてしまいたいと思う。今回のようなことがあるのなら……」
「今回のようなこと、って?」
エースは今日の撮影時にあったことまでは知らない。僕がかいつまんで説明をした。
「……女優さんとキスしたんだ。CMの撮影で」
「えっ!? シルバー先輩が!? ウッソ、見たかった!」
「お前な、エース……」
僕に遠慮はないのか僕に! 明け透けなエースの態度に呆れていると、シルバー先輩は言った。
「お前には言いそびれていたが、あのとき、あの女優に『デュースくんに迷惑をかけたくなければ、受け入れて』と言われていた。俺たちの関係を知っていて脅かしているのか、それともお前に危害を加えるつもりなのか、分からなかったが、あのときは従う他なかった」
「へ~それで……」
エースはうなずきながら、僕たちの事情を聞いている。
「だが、あんな風に言われるくらいなら、……傷ついたお前の笑顔を見るくらいなら、どんな時でも堂々とお前を守れる立場になりたい。俺は、監督の誘いに乗りたい。ダメだろうか、デュース」
「僕は……」
正直、僕は迷っていた。もし、関係が明かされたとして、減るのが多いのはきっとシルバー先輩の方のファンだ。監督もそう言ってた。そうなれば、シルバー先輩の夢の邪魔になってしまっているのは、僕になる。だけど、シルバー先輩の傍に堂々と立っていられたら、きっと嬉しいだろう。どうしよう。僕、どうしたら――
そんなことを考えていると、エースにつんと眉間をつつかれた。
「そんなムズカシイ顔して考えることじゃなくね? イマドキ、アイドルがウソついてまーす、なんて皆知ってる時代じゃん。そこでホントのこと言うのは確かに勇気いるかもだけどさ。オレは、ホントのこと言おうって考えられるお前らが羨ましいって思うよ」
「エース、羨ましいって? お前にも、好きな人や恋人がいるのか?」
「うん。リドル事務所長!」
「ええっ!?」
シルバー先輩も、口には出さないもののこのエースの発言には驚いたようだった。芸能事務所の所長と所属アイドル、た、確かにアイドル同士よりもなんていうか禁断の香りがする。枕営業とか……そんな単語がつい頭をよぎってしまう。二人の性格を知っていれば、絶対そんなことしないって分かるけど。
「だから、もしかしたらファンに受け入れてもらえるかも、って希望もあるお前らのこと、いいなーって思う。もし、ファンがひとりもいなくなっても、オレがお前らの新生ファン1号になってやるから、言うだけ言ってみたら?」
「エース……」
ここまで背中を押されて、やらないわけにはいかない。僕はシルバー先輩に向き直り、宣言した。
「……やりましょう、シルバー先輩! やるだけやってみて、それからまた、問題があったら考えましょう!」
「デュース……。ああ、ありがとう」
こうして僕たちの心は決まった。あとは、ローズハート事務所長に報告して、監督にこの旨を打診するだけだ。
*
「や、例の話受けてくれたんだってね、ありがとね~。キミたちのCMはここ、屋上で撮るからね」
「……この屋上で、ですか?」
「そ、この屋上で、ね」
その屋上は、この間僕が逃げ込んだ屋上だ。正直あまり良い思い出のある屋上じゃないから、ここで撮るのは微妙な気持ちになるんだけど……。
「今日はふたりでの撮影だから、リラックスしてね。ウチのスタッフにはみんな話通してあるし」
そっか。ここにいる人、みんな僕たちのこと知ってるんだ。大人の人たちの暖かい視線に囲まれて、ちょっとだけ安心できる気がした。
やがて撮影が開始する。僕は泣きながら(もちろん、目薬での仕込みだ。僕はすぐに泣けるほど器用じゃない)屋上に走って逃げ込んで、シルバー先輩がそれを追いかけてくる。そして、振り返った僕を捕まえてそのままキスをする。
「好きだ……っ、俺は、誰に何を言われても、お前のことが好きなんだ!」
そしてシルバー先輩にぎゅうっと抱きしめられるので、僕はそれを嬉しそうに抱きしめ返す。
やがてカットの声が響き、監督はうんうんとうなずいた。
「シルバーくん、アドリブけっこううまいね」
「いえ、本音を言っただけですから。俺は、演技は得意ではないので」
……え、もしかしてシルバー先輩のセリフ、アドリブだったのか? 僕が驚いていると、監督がちょいちょいと僕を呼んだ。
「CMの放映、楽しみにしててね。とびきりのに仕上げるからね」
それから僕たちは、CMの上映と共に、記者会見を開くことになった。表向きは有名監督(実は有名な監督だったらしい!)が見せる新CMのお披露目会だけれども、僕たちにとっては新たな門出の1ページだ。お互い、ブログには『重要なお知らせがあります』とだけ書いておいたから、ファンの間ではいろいろな予想が錯綜している。その中には、僕たちの結婚報告だ、なんて茶化すものもあった。……正解に近いだけに、少し笑ってしまう。でも、茶化すってことは、それだけ本気ではないと思ってるってことなんだよな。
やがて挨拶を終えた監督が僕たちに場を譲ろうとする。
『それから、今回のCMに出演してくれたVopal Swordの二人から大事なお話があるんだけども――その前に、CMを見てもらおうかな』
会場真ん中の大きなモニターに、監督が撮影したCMが流れる。……もう、後戻りはできない。
まずは学校のシーン。女優さんが演じる高校生の女の子に、棒状のチョコ菓子をひとくち食べて渡される。
『これ、間接キスじゃないか?』
画面の中の僕は照れながら、女の子の頬にキスをするふりをする。カメラはわざと、ふりをしているだけというのが分かるように抜かれている。
会場の人たちの頭に疑問符が浮かび始めたところ、次の映像が流れる。
『……』
それはスタジオで、僕を睨みつけている、素のシルバー先輩の姿。
『何、俺以外の奴にデレデレしてるんだ?』
『あはは……』
それを苦笑いで受け流す僕。どよめく会場をよそに、映像は流れ続ける。次のシーンは、シルバー先輩のCM。あの映像はそのまま使われたようで、赤いドレスを着た女優さんが、シルバー先輩の耳元で何かをささやく。そこには文字のテロップで、『デュースくんに迷惑をかけたくなければ、受け入れて』と書かれていた。それから女優さんは、シルバー先輩の口にチョコレートを食べさせて、吸い寄せられるようにキスをする。シルバー先輩は、はじめは眉を寄せて不満そうにしていたものの、やがて目を閉じ、女優さんの頬に手を添えて、自分から、熱く、熱く応えるようなキスをした。その映像には続きがあった。カット、と声がかかったあと、シルバー先輩が言う。
『満足か?』
『ええ、とても』
シルバー先輩は口紅のついた唇をごしごしと拭い、すぐにどこかへと走り出す。その先には、スタジオを出ていく僕の背中が映っていた。
そして最後に、僕たちが二人で撮ったCMが流れる。僕は泣きながら屋上に走って逃げ込んで、シルバー先輩がそれを追いかけてくる。そして、振り返った僕を捕まえてそのままキスをする。
『好きだ……っ、俺は、誰に何を言われても、お前のことが好きなんだ!』
そしてシルバー先輩にぎゅうっと抱きしめられるので、僕はそれを嬉しそうに抱きしめ返す。
最後に、『どんな恋も叶うチョコレート』という大きなテロップと共にお菓子の映像が映って、CMが終わる。上映が終わって明るくなった会場に、ざわめきが走った。
『それじゃ、ここでVopal Swordのお二人から大事な大事なお話です』
監督にマイクを渡され、僕たちはお互いの顔を見て、頷きあう。ローズハート事務所長と何度も記者会見の受け答えは練習した。今さら、間違えようがない。
『今まで応援してくれたファンの皆さんに、改めてご報告したいことがあります。僕たち、Vopal Swordのシルバーとデュースは――真剣に、交際しています』
『今回は、監督の力を借りて、このような形で僕たちの本当のことをお届けすることになりました』
『隠しておくことも考えましたが、ファンの皆にも、大切な人を大切だとちゃんと紹介したいという思いから、このような発表をする運びとなりました』
『俺のことを、恋の相手だと思ってきてくれたファンには、今まで隠していたことが本当に申し訳ないが……。これまでの俺たち二人の活動を見てきてくれていたファンのみんななら、分かってくれると思う。……今まで、本当にありがとう。良ければ、これからの俺たちも応援してくれると嬉しい』
『今回のことで、悲しむ人は必ずいるって思う。でも、それは僕たちが背負っていかなきゃいけないものだから、ちゃんと忘れないようにしたいです。それでも、まだ僕たちを応援してくれる、背中押してくれるってファンの人たちがいたら、ホントに本気で、これまで以上に頑張っていきたいなと思います』
言いたいことは言い切った。次々と向けられる質疑応答のマイクには、ローズハート事務所長が応答してくれる手筈になっている。僕たちは深く一礼して記者会見を終え、監督の元へ走った。
「監督!! 今回は本当に、ありがとうございました!!」
「……ありがとうございました!!」
二人で頭を下げてお礼を言う。
「いいのいいの。実際、勝負はこれからだからね」
「それでも、ありがとうございます。僕たちにとって、大きなきっかけになりました!」
「うん、それじゃあ、これからもボクの仕事は優先的に受けてくれると嬉しいね、それじゃあね」
監督はひらひらと手を振ってどこかに消えてしまう。本当に器の大きい人だな、と僕たちは笑い合った。
それから、しばらく。ワイドショーの話題は僕たちが三日くらい、コーナーの一部を占拠していた。週刊誌の記事には『Vopal Sword熱愛宣言!?』だとか面白おかしく書かれたものもあれば、『交際宣言』や『カミングアウト』などお堅く書かれたものもあって。だけど、大体のコメンテーターの人たちは『二人がこれから、頑張っていけるといいですね』『ファンの方にも祝福してもらえるといいですね』なんて暖かいコメントをくれていた。
交際宣言をしたあとのブログコメントも、『おめでとう』『やっぱりそうだったか』『今は悲しい気持ちもあるけど、これからも二人を応援したいと思っています』と、いつもより数は減ってるものの、前向きなコメントが数多く残っていた。
監督が撮ってくれたCMの反響としては、ストーリー性が高かったのもあり、意外にも『愛し合ってるふたりを引き裂くなんて!』という声が多かったらしい。ファンの人たちに、CMのストーリーで先に『二人を引き裂いて欲しくない』と思わせることで、僕たちのことも受け入れられやすい流れを作っていたんだって。監督が、そうなるように撮ったからね、と言っていて、共演した女優さんも、私の悪役っぷりもなかなかでしょと笑っていて、僕たちはこの二人に頭が上がらなくなってしまった。
僕たちの仕事量でいけば、一時的には確かに減ったかのように見えた。けど、減った仕事の代わりに新たな仕事がいろいろと舞い込んできた。案外、『幸せそうな若いカップル』とやらを求めている場所は多かったらしい。料理番組にお邪魔したり、新婚さんを紹介するコーナーや、不動産のお部屋紹介なんかに呼ばれることもあった。
そのときに僕たちはお互いの名前を出すことも多くなった。元々、同じユニットの仲間として名前を出すことはあったけど、今は恋人、パートナーとして。
『デュースくん、料理上手になったら誰に食べてもらいたい?』
『そうですね、やっぱり母さんと……シルバー先輩、かな!』
『相変わらず熱いわね~、いいわね若い子って』
『言わせたでしょ! 絶対言わせた!』
『この物件良くないですか?』
『ああ、住みやすそうだ。特にこのカウンターキッチンがいい。お前の顔がよく見える』
『何言ってるんですか! カメラ回ってますよ!!』
『もう回ってても問題ない』
『もう!!』
僕たちの掛け合いは、物珍しさからなのか案外ファン内外の人からも人気をじわじわと博したようで、今はそれなりに『そういうもの』としてお茶の間へと受け入れられている。
――世界は案外、暖かかったんだな。
僕は、そんな自分たちの映るテレビの光景を眺める。すると、隣で眠ってしまったらしいシルバー先輩が肩にもたれかかってきた。
「シルバー先輩? 寝ちゃうんですか?」
「んん……」
「……ふふっ、おやすみなさい」
もちろん、暖かい意見ばかりじゃない。僕みたいな、過去に傷のある奴はシルバー先輩の隣には相応しくないみたいな、厳しい意見もある。これから乗り越えなきゃいけない問題だって、たくさん。でも、今は、この人の隣にいられる。それを認めない人も、認めてくれる人もいて。それでいいんだ、って思えるのは、きっと僕たちが歩いてきた軌跡の賜物なんだろう。
*おしまい
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