一生やってろ××ップル

 唐突だが、俺は困っている。先日、後輩であるデュース・スペードに好きだと想いを告白して、交際に承諾をもらった。それ以来、ずっと困っている。……デュースのことが、可愛く見えてしょうがないからだ。
 いや、告白する前から既に可愛いとは思っていて、だんだんと一方的な想いを募らせてしまい、デュースが可愛くて仕方がなくなった頃、このままでは良くないと思い、いっそ振られてしまう覚悟でこの想いを落ち着かせようと気持ちを告げたのだが……。向こうも同じように思ってくれていたということが分かって、さらに一層魅力的に見えるようになってしまった。
 朝からデュースに会って、おはようございますと笑顔を向けられれば、すぐにでも抱きしめてくちづけをしてしまいたくなるし、他の者と楽しそうに笑っていれば、何をよそ見しているんだと顎を引いて俺の方へ向かせてしまいたくなる。
 親父殿に相談してみても、若いのう、良いのではないかと笑うばかりだし、この俺の気持ちはいったいどうすれば良いのだろうか。
「はあ……」
「どうしたんですか?」
 思わず、溜め息をついてしまった。せっかく二人きりになれて、デュースを腕の中に抱けたというのに、良くないことだったな。
「すまない。なんでもないんだ」
「本当ですか……?」
 デュースは心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。少しだけ上目遣いになった表情が、愛らしくてしょうがない。
「ああ。お前が可愛らしすぎて、困ってしまっていただけだ」
「なっ、何、言ってるんですか……っ! っていうか、可愛くないです!」
 困った。顔を赤くしながら反論するデュースが、自分を恐ろしい猛獣だと思い込んでいる子猫のようで、ただただ可愛らしい。
「お前は可愛い」
「可愛くないってば、」
「ああ。お前はそう言っていて、思っていていい。お前がこんなにも可愛らしいことを、他に気付かれたら困る」
「だからもう、何、言ってるんですか……っ!!」
「デュース」
「……ん」
 名前を呼び、顎を引いて顔を寄せれば、デュースは大人しくなり、目を閉じる。さっきまで元気だったのに、キスをして抱きしめているときだけは大人しくて静かになるものだ。そんな一面も可愛らしくて、また溜め息が出そうになってしまう。
「これ以上お前に参ってしまったら、俺は一体どうなってしまうことだろうか」
「なんで先輩そんなに僕のこと好きなんですか……」
「素直で可愛い。元気だ。ハキハキしている。足が速い。よく笑う。友人、知人にさり気のない気遣いができる。人の過去や、見られたくない一面を詮索しない。家族想いで、芯が強い。一方で、支えてやりたくなる弱い一面も持っている。いつも一生懸命で、見ているとつい応援してやりたくなる」
「分かった、分かりましたから!! もういいです!!」
 好きなところを思い付いた順にあげていたら、もう言わなくていい、とデュースに途中で止められてしまった。お前の好きなところを言ってほしいのなら、最終的にほぼすべてになるまで、まだたくさん言えたというのに。
 デュースをじっと見ていると、そんな不満そうにされてもダメです、と怒られてしまった。俺は表情に出にくいタイプだと言われがちだが、分かってくれたのか。嬉しい。また、デュースをぎゅっと抱きしめる。
「好きだ、デュース」
「……毎日言ってくれますね……」
「毎日百回言ってもまだ足りない」
「先輩の喉、疲れちゃいますよ……」
 それに、僕の心臓も持ちません、とデュースは言う。デュースの胸に手を当て、ドキドキしているのか、と尋ねると、その答えは鼓動の速度で返ってきた。
「可愛い、デュース」
「だからもう、可愛くないって……」
「好きだ。可愛い、デュース」
 デュースの耳元にちゅ、ちゅとまたキスを落とす。次の授業の始まりを告げるチャイムが鳴るまで、俺はデュースとの時間を楽しんだ。

 いきなりだが、僕は困ってる。……ちょっと前に、シルバー先輩から告白されて、それをOKして以来、シルバー先輩が……恰好良くてしょうがないんだ!!
 正直、告白される前からずっと憧れてて、でもシルバー先輩のまわりにはもっと凄くて強い人がたくさんいるから僕なんか目に映らないだろうな、って思ってたら、ずっと前から好きだったって言われて……。飛び上がるかと思うくらい嬉しかった! あんなに嬉しかったのは、初めて自分のマジホイを持ったとき以来だな……。
 で、そうやって告白されて以来、シルバー先輩がたくさん好きだって言ってくれたりキスしてくれるようになって、なんかだんだん、とびきり恰好良く見えてきた!! いや、前から恰好良くはあったんだけどな!? もっと増えたんだ、100%が200%、いや400、いっそ800%……それでも足りない感じになったみたいな感じなんだ!!
 朝から会えただけでも、嬉しくてご主人さまにしっぽ振ってる犬みたいになっちまうし、ヤキモチ妬いてくれるのが嬉しくて、わざとシルバー先輩の前でちょっとだけ他の人と仲良さそうにしちまうこともある。可愛いって言われるのなんかも、最初はちょっと癪だったけど、シルバー先輩からの「可愛い」は「好きだ、好きでしょうがない」って言われてるようなもんだと思ったら、だんだん嬉しさと照れくささの方が上回るようになってきて……。
 だからと言って、ユウにどうしたらいいと思う!? って相談しても先輩が困ってないならデュースはそのままでいいと思うよってしか言ってくれないし……。本当に困った話だよな!?
「うーん……」
「どうした?」
 しまった、悩んじまった。せっかくまたシルバー先輩と一緒の時間を取れたのに、心配とか、かけたくはないよな。
「あ、えっと。なんでもないんです」
「……一体、何を考えていたんだ? お前の心を、何が煩わせている?」
 これは、心配してくれてる……! くっ、相変わらず優しくて恰好良いな……!! この人、何回僕を好きにさせたら気が済むんだ!?
「な、なんでもないんですっ。えっと……っ」
「……俺といるときに、他の奴のことでも考えたのか?」
 ヤ、ヤキモチだ!! ヤキモチまで妬いてくれてる、どうしよう嬉しい! まつ毛長い、吐息かかる! 近い! 近くで見ても恰好いい! いや、でも、僕が考えてたのはシルバー先輩のことだけだ!!
「……シルバー先輩が恰好良すぎて、困ってるんです……」
「本当か?」
「ほ、本当にそうだって言ったら、どうするんですか?」
「ふっ。それなら、こうする」
 シルバー先輩に顎を引かれ、キスをされる。……どうしよう、僕、先輩と付き合ってから、キス好きになったかもしれない。先輩がたくさんキスするから、好きになっちまった。キスいっぱいしてもらうのが、たくさんドキドキして好きだなんて、こんなの、僕、変態かもしれない……!
「僕、変になりそうです、先輩……」
「なら、俺の前でだけ、なればいい」
「……なったら、嫌いになりません?」
「なるものか。今、証明してやってもいいぞ」
 それから、シルバー先輩はまたたくさん頬や唇にキスしてくれる。予鈴のチャイムが鳴るまで、僕はシルバー先輩にずっとドキドキさせられっぱなしだった。

 

 それから、また別の日。
「先輩とのキスって、なんでこんなに気持ちいいんだろ……」
 ぼうっとして呟いた言葉が、シルバー先輩の耳に届いた。
「これが気持ちいいのか?」
 また、シルバー先輩から唇にキスされる。何度やられても、すごく気持ちいい。やみつきになりそうだ、ってか、もうなってる。
「……もう、これなしじゃいられなくなりです……。先輩のせいですよ」
 先輩がたくさんキスするから、と先輩のせいにしたら、先輩は笑って受け止めてくれた。
「ふっ、すまない。お前が可愛らしいから、つい、抱きしめてキスをしたくなってしまう」
「ったく……」
 だが、お前も拒まないだろう、とシルバー先輩が言う。
「……シルバー先輩が恰好いいから、キス、してもらいたくなっちまうんです」
「そうか。嬉しい」
 そんなことを話してまたキスしてもらっていると、ちょうどそのタイミングで教室のドアが空いた。ここは空き教室なのに、一体誰だ?
「シルバー! ここにいたのか、ちょっと手伝ってほしいんだけど……え!?」
 そこに現れたのは、アジーム先輩だ。キスしてる僕たちを見て驚きの声をあげている。シルバー先輩はそれを一瞥して、答えた。
「……それは俺でなければならない、急ぎの用事か?」
「え? あ、ああ、いや……」
「なら……すまないが、取り込み中だ。こういうことで頼む」
 シルバー先輩は僕を胸に抱き寄せて、内緒だぞとでも言うように人差し指を口に当てた。
「お、おう……邪魔したなっ!」
 アジーム先輩はちょっと顔を赤くして、ドアを閉めてバタバタと立ち去った。
「良かったんですか?」
「大丈夫だ。本当に困っていたら、カリムも自分でなんとかするだろう」
「アジーム先輩のこと、よく知ってるんですね」
「ふっ。妬いたのか? ……俺はお前のことしか、そんな風には目に入れていないというのに」
 先輩と目が合って、シルバー先輩に顎を引かれる前に、自分から目を閉じる。そうしたら、やっぱりシルバー先輩はまたキスを落としてくれた。

 

 そんなある日のことだ。僕はある同級生に言われた。寮章を見る限り、ディアソムニア寮の生徒だ。いいなあ、同じ寮。シルバー先輩は寮ではどんな生活してるんだろう。
「なあ、お前シルバー先輩と付き合ってるって言ってたっけ? あの人、こないだ綺麗な女の人と一緒に街を歩いてたぜ」
「えっ……」
 僕はショックを受ける。まさか、シルバー先輩がそんなことをするだなんて……。
「やっぱりお前みたいな男より、綺麗な女の人の方がいいんだろうな、あの人も」
 そんな言葉を続ける同級生に、慌てて僕は言う。
「悪い、教えてくれてありがとう! ちゃんと僕から叱っておく!!」
「これに懲りたら、立場も弁えずやたらあの人とイチャつくのはやめ……おい!? 叱るってどういうことだ!?」
「え、シルバー先輩が僕を妬かせたくて、女の人を付き合わせてるかもしれないんだろ……? だったら相手の人にも迷惑だし、やめさせないと!」
「お、おい! 俺が言ってるのはそういうことじゃ――」
「善は急げだ! ちょっとシルバー先輩のところに行ってくる!」
「なんでそうなるんだよ!?」
 そうして、僕はシルバー先輩のところへと慌てて向かった。
「シルバー先輩っ!」
「デュース。どうした?」
 シルバー先輩はアジーム先輩と何か話していたみたいで、いきなり二年生の教室に来た僕を嬉しそうに僕を迎えてくれる。アジーム先輩はなんだか少し僕たちを見て照れくさそうにしている。
「お話がありますっ!」

 そしてシルバー先輩を廊下に呼び出し、僕は言う。
「シルバー先輩、他の女の人と一緒に街を歩いてたって本当ですか?」
「他の女の人? 身に覚えはないが……。最近、街へ降りた記憶も、女性と歩いた記憶もない」
「えっ? そうなんですか?」
「ああ。……誰がそんなことを?」
 僕はディアソムニア寮の同級生から聞いた話だとシルバー先輩に報告した。
「そうか。恐らくアイツだろうな。一体、なぜそんな嘘を吐いたのか、ちゃんと俺から聞いておく」
「分かりました。……あの、本当に女の人とは歩いてないんですよね?」
「ふっ、妬いたのか?」
「いえ。もしシルバー先輩が僕を妬かせようとしてしたんだったら、女の人に悪いからやめさせないとと思って! したらダメですからね!?」
「……」
「先輩?」
「……くくっ」
「な、なんで笑ってるんですかっ!?」
「お前が俺のことを好きだからだ」
「俺がお前を、じゃなくて……?」
「ああ」
 そのあとすぐチャイムが鳴ったので、なぜか機嫌の良いシルバー先輩といったん別れを告げた。

 デュースが慌てて二年生の教室に駆けてってから、一日後。シルバー先輩が、デュースに何か報告してる。……オレいるのスルーですか?
「お前に嘘の報告をしたというディアソムニア寮生だが、捕まえて話を聞いた」
「どうだったんですか?」
「ああ。どうも、アレは俺のためにやってくれたことだったようだ。お前を妬かせてくれようとしたのだろう」
「えっ、そうだったんですか?」
「そうだ。話を聞く限り、デュースの傍にやたらといるのは俺のためにならない、だから俺のためにやったことだと言うから、そう理解した。時には離れている時間が愛を育むということを教えてくれようとしたのだろう。そういうわけで、やり方はまずかったかもしれないが、許してやってくれないだろうか」
「なんだ、そうだったんですね! 全然大丈夫ですよ!」
「ああ」
「いやそうじゃねえだろ!!」
 察しの良いオレはツッコミを入れる。聞いてる限りそれ、絶対違うよね!? ソイツ、お前らの仲の良さを妬んで、明らかにすれ違いでも起こさせようとしてるよね!? その解釈になるのはソイツが可哀想すぎない!? 勝手に聞いてただけのオレでさえ、実際シルバー先輩に同じことを言われただろうソイツに同情する羽目になってるよ!?
「なんだお前、堂々と盗み聞きして」
「オレの方がシルバー先輩より先にお前の隣にいましたけど!? 二人が勝手にワケわかんねえ会話始めたんだよね!?」
「エースはいつもデュースの隣にいるようだな。妬けてしまうぞ」
「オレをダシにしてイチャつかないでくださる!? ……話戻すけど、お前らのためじゃねえからそれ! そのディアソムニア生!」
「「そうなのか?」」
「そーだよ! どう考えてもお前らを引き裂きに来てんだろ! 憧れだか恋愛だか、理由は知らねえけどシルバー先輩にデュースが近付いてるのが許せなかったんだろ! ひょっとしたらその逆かもだけど、とにかくそう!」
 二人はようやくショック受けたっぽい顔で顔を見合わせる。そーそー、ちょっとくらいは傷ついてあげなって。お前らみたいなバカップルのダシにされたんじゃ、あまりにも向こうが浮かばれねえよ。
「そうか、アイツには悪いことしたな……」
「ああ、そうだな。申し訳がない」
「そーそー、ちょっとは悪びれろって。聞いてただけのオレが同情する羽目になってるじゃん……」
「ちゃんと俺たち自身の力で、もっと幸せになれるようにならなくては」
「ですね!」
「いやなんでそーなんの!?」
 思わずツッコミを入れると、またワケのわかんねえ答えが返ってきた。
「普通、好きな人には幸せになって欲しいと願うだろう。だから、そのために手間をかけてしまったのだと思った」
「……はい? オレ、ソイツは二人を引き裂きに来たって言ったよね?」
「ああ。聞いたぞ。障害を乗り越えた二人は、より深い気持ちで結ばれるってことを、ソイツは知ってたんだろ。それで、わざわざ憎まれ役を引き受けてくれようとしたんだ」
「お前シルバー先輩の考え方に染まってね?」
「シルバー先輩に憧れてるか、好意を持ってる、同じ寮の後輩だぞ。きっと先輩と同じように考えるはずだ!」
「そんなことある?」
「ああ。俺もデュースと同じように考えた。だから今度はアイツに心配をかけてしまわないよう、より一層仲の睦まじさを維持できるよう、努力しなくてはな」
「はいっ!」
 嬉しそうに笑い合うシルバー先輩とデュースを横目に、オレは叫んだ。
「あーもう勝手にしろ、このバカップル!! オレ知らねーから!!」

 バカップルは酷いだろ、とデュースがワケわかんねえとこで怒ってくるけど、知らねえよ!
 たぶんコイツらド天然カップルにはどんな妨害も無意味なんだろうねと、オレは未だ見ぬ恋敵たちに合掌するのでした……。
 ……一生やってろ、このド天然バカップル!

*おしまい

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