幸福な悪戯

*シルデュ付き合ってる恋人設定です
*監督生(♂、ユウ)が少しだけ喋ります

以上大丈夫な方はスクロール↓

 

 

 
 明日は、5月15日。僕は、ひとりベッドの中で気合を入れていた。
 ――明日は、もし朝から会えたら、いの一番に、シルバー先輩に「お誕生日おめでとうございます!」って言うんだ! だって、僕はもう……シルバー先輩の恋人なんだからな!
 星送りの舞を練習していたとき、僕の話を聞いて、励ましてくれて。
 それからずっとシルバー先輩のことが好きだったけど、ある日、告白したら、同じ気持ちだって笑ってくれて。それ以来、ずっとずっと僕のことを大切にしてくれて。
 そんな、大好きで大切でたまらないシルバー先輩の誕生日だからこそ、とびっきりの気持ちで、とびっきりの笑顔で、とびっきり元気なお祝いをしたいんだ!!

 と、思っていた、のに。僕が朝、目が覚めると。
 枕元に、ひとつのバスケットが置かれていて。不思議に思って中身を見てみると、中には卵フィリングを挟んだロールパン、つまり卵ロールと、1杯のミルク瓶に、1通のメッセージカード。
『おはよう、デュース。目は覚めたか? おいしい朝食を食べて、今日も元気で』
 どう見ても見慣れたその字はシルバー先輩のもので、え、なんでここに、僕が寝てる間にハーツラビュルに来てたのか、なんてきょろきょろ辺りを見回してみるけど、シルバー先輩の姿は影も形も見当たらない。気配すらしない。
 とりあえず卵ロールを口に入れてみると、塩コショウとハニーマスタードで作られた卵フィリングの味が口いっぱいに広がった。
 あまりのうまさに思わずパクパクと完食してミルクまで飲み終わると、メッセージカードの中身が変化していた。
『うまかったか? 最後まで食べてくれて、嬉しい。ありがとう、デュース』
 またきょろきょろと辺りを見回すけど、やっぱり全然シルバー先輩の気配はない。
 なので、とりあえずスマホでシルバー先輩にメッセージを送っておいた。
『朝の卵ロールめちゃくちゃうまかったです! ありがとうございます!!』

 それから、洗面室で顔を洗いに行く。すると、先客が何人かいた。
 エースが「ここ空いてるよ」と僕に隣の席を勧める。珍しく気が利くな、なんて思いながらその席に座り、髪や顔を整える。
 ざぱ、と冷たい水で顔を洗い、顔を上げると、いつの間にか鏡にメッセージの書かれたメモが貼り付けられていた。
『寝ぐせは治ったか? 今日も可愛いな、デュース』
 これ、さっきまではなかったよな、と思って、僕は鏡からメモを剥がして手に取り、きょろきょろと辺りを見回す。
 それでも、隣には「何きょろきょろしてんの」と怪訝な顔をするエースがいるだけだった。

 朝からシルバー先輩を探しながら廊下を歩いてみたけど、全然見つからない。
 そのままホームルームが終わって1限目が始まり、僕は落ち着かないまま授業を受ける。
 今日も魔法史の授業は難しい。眠くなりそうな目を必死で堪えて、むむむ、と黒板を睨んでいたら、監督生がトントンと僕の肩を叩いた。
「どうしたんだ、監督生」
「デュース、なんか教科書に挟まってるよ」
「え?」
 慌てて教科書を見てみると、また小さなメモが挟まってた。
『勉強、頑張れ。応援している』
 僕はそのメモを見て、思わずにやつきそうになったが、監督生の前だし、そもそも授業中なので必死に抑える。
「なんだった?」
「……えっと。なんていうか……良いやつ、だった」
「そっか、良いやつだったんだ。良かったね」
「ああ。……とりあえず、気合入れ直して、勉強、頑張ろうと思う!」
 そうして僕は改めて気合を入れ直し、午前の授業を受けた。
 その間もずっと、教室の窓からとか、移動教室の廊下とか。校庭や中庭とかにシルバー先輩の姿が見えるんじゃないかと休み時間の度に探したけど、姿は見つからなかった。

 それから、昼休み。まずは昼飯の時間だ。食堂に行くとエペルが席を取っていてくれた。
 ありがたいと相席して、食堂のふわとろオムライスを味わう。
「く~、この卵の旨みがたまんねえ……!!」
 いつも通りのうまさを誇る食堂のオムライスに舌鼓を打っていると、いつの間にか、僕のプレートにプリンが1つ増えていた。それも、『To Deuce』と書かれた旗付きで。
 ……誰かのが間違って置かれたとか持ってきちまったとか、そういうわけじゃなさそうだ。
「なあ、エペル。このプリンって、最初からここにあったっけか?」
「どうだったかな? よく見てなかった、かも」
「まあ、そうだよな。……うーん?」
「何かあったの? 良かったら、聞かせてくれると嬉しい……かな」
 僕はエペルに、朝から不思議なことが続いていると話す。
 シルバー先輩からっぽいメモや贈り物は見つかるのに、シルバー先輩の姿は影も形もないんだ、と。
 するとエペルはにこりと笑って、僕にこう言った。
「ひょっとしたら、シルバーサンのイタズラ……だったりしてね?」
 お誕生日なんだし、せっかくだから付き合ってあげたらどうかな、とエペルは言う。
 イタズラだったのか、これ。だとしたらあまりに可愛すぎて、シルバー先輩のイタズラだと気づかないところだった。
 でも、確かにエペルの言う通りだ。シルバー先輩がたまには悪ふざけしたいとか、イタズラしたがってるってことなら、全力で付き合おう!!
「よし! なんでもどんとこいだ!!」
「うん、頑張ってね、デュース!」

 それから僕は、こっちも気合を入れて午後の授業を受けた。どっからシルバー先輩のイタズラが来てもすぐ対応できるように。と、思ったが。
「BAD BOY!!」
 ……気合を入れるだけでは、そう上手くは行かないってことだな。
 また魔法薬学の実験に失敗して、ちょっとした爆発を起こしてしまった。
 今日は小さめの爆発だったから、叱られが少しで済んだことをありがたく思うしかない。
「デュースオメー、また失敗してんのか? 元気出すんだゾ!」
「グリム……。慰めてくれてありがとな……」
 グリムがその手? 前足……? を、僕の頬に押し付ける。
 それが離れたあと、何か違和感を持って頬に触れると、そこにもメモ書きがあった。
『落ち込むな。また出来るまで、挑戦すればいい』
 僕はそれを見て、やっとこの魔法の仕掛けに気づいた。
「……あ! そういうことだったのか……!!」
 朝から、僕の傍には誰かがいた。エペル、エース、グリム、監督生。
 アイツらみんな、シルバー先輩とグルだったのか!!
 ったく、アイツら……何も知りませんよみたいな涼しい顔しやがって!!
 あれ、でも。じゃあ、今朝のバスケットは誰が……? ハーツラビュル寮内を許可なく歩きまわったりしたら、うちのカシラが黙っちゃいねえよな、と思った時。
 その事実にも気づいた。……じゃあその寮長が手伝ってるかもしれねえのか……!!
 僕のダチだけでなく、上級生まで巻き込まれてるとなったら、かなり大掛かりな仕掛けだ。
 これから何があっても大丈夫なようにと、改めて僕は身構えた。

 身構えた、が。身構えすぎて案外何もないことに拍子抜けして、中庭のベンチでうとうとし始めた昼休み。
 ぼーっとしていたら、目の前に大きなシャボン玉が飛んできて、それが僕の目の前で割れた。
「うわ!?」
 割れたシャボン玉の中から、白い薔薇の花びらが散らばる。
 そして、1枚のメモが、僕の手のひらへ納まろうとするかのようにひらひらと舞い降りてきた。
『目は覚めたか?』
 僕はその場で、笑ってしまいそうになりながら叫ぶ。
「シルバー先輩、どっかで見てるんですか!? 出てきてくださいよ、もう!」
 すると、確かに人は出てきた。出てきたんだけど、出てきたのは。
 中庭のリンゴの木にぶら下がった、ヴァンルージュ先輩だった。
「くふふ、驚いたか? デュースよ。あやつの悪戯は大成功じゃの! 今日という日はまだまだ続くから、最後まで楽しむが良いぞ!」
 そしてヴァンルージュ先輩は、瞬く間に消えてしまう。
 あ、これシルバー先輩はまだしばらく姿を見せてくれる気はないな、と僕は観念するのだった。

 それから、僕は午後の授業を終え、陸上部の部活に出る。
 さすがに部活中は何もないようだなと安心して部活が終わり、自分の荷物を置いていた場所を見てみると、またバスケットが置いてあって。その中には、冷えたスポドリとタオルが増えていた。
「今度はなんだよ、ったく」
 嬉しさと笑みを我慢できなくなりながら、メモを見てみる。すると、そこにはこう書かれてあった。
『お疲れさま。もうすぐ会えるな』
「……もうすぐ、会える? どういう意味だろ」
「もうすぐ会えるっつってんだから、すぐ会えるんじゃねえの。まずはその服、着替えたらどうだ?」
 後ろからジャックに声をかけられて、僕は合点がいく。
「今度の共犯はお前か、ジャック?」
「まあ、あの人には世話になってっからな。断るわけにもいかねえし、部活のジャマにならない程度ならっつー条件でOKしたんだよ」
 なんだよ、ジャックの口ぶりからして、別に隠さなくても良かったみたいだな。
 じゃあ前半みんなが口を揃えて黙ってたのは、僕の反応が面白かったからか!?
 ったく、アイツら、とイタズラ好きの同級生たちに呆れる心地になりながらも、まあいいかと心が浮き足立つのを抑えて服を着替えようと歩き出した。
 ……正直、嬉しいけど。そろそろシルバー先輩に会いたいと思ってたからな。
 ちゃんと今日会って、お祝いの言葉を言えるのは、嬉しい。
「っし、あと少し!! 気合入れっぞ!!」
 更衣室で自分の頬をぱんぱん、と叩き、気合を入れ直す。
 そして制服に着替え、更衣室を出た僕を待ち受けていたのは、一匹の青い小鳥だった。
「チチチッ」
「……なんだ? コイツ。シルバー先輩の傍に、よくいる小鳥だよな……」
 小鳥は僕の周りを飛び回り、そして、ついて来い、とでもいうかのように飛び回りながら僕を振り向いた。
「この先に、シルバー先輩がいるのか?」
「チチチッ」
 ドキドキと期待に膨らむ胸を抑え込むこともせず、小鳥についていく。
 小鳥が僕を連れていった先は、鏡舎だった。
「……これは……?」
 白いバラの花びらが、点々と落ちている。まるでそれも、僕を道案内するかのように。
 バラの花びらは、ディアソムニア寮へと続いている。
「……」
 他寮の敷地に、断りも用事もなく邪魔するなんて、普段なら絶対やらない。
 でも、今は。そこに、呼ばれている……招かれている、気がした。
 バラの花びらを辿り、ディアソムニア寮への鏡を潜る。白い花びらの案内は、ディアソムニア寮の玄関から脇道へと続いている。
「お、お邪魔します……」
 玄関から脇道へ曲がるとき、誰もいないとはいえなんとなく敷地を踏むことに躊躇いを感じ、挨拶をしながら進む。茨が植えられた道を進んでいくと、やがて突き当りに行き当たった。
 花びらはその角を曲がるように続いている。
「ええと、次はこっちか?」
 僕がその曲がり角を進むと、するとそこには、ある人が立っていた。
「うわあ!」
「こんばんは、デュース。無事辿り着いてくれたみたいだな」
 そこにいたのは、まるで王子様みたいな恰好をしたシルバー先輩で。
「こ、こんばんは! どうしたんですかそのスーツ、っていうか、ドレス?」
「ああ、これは……。今日のことを話したら、ヴィル先輩とオルトをはじめとした映研の面々が、仕立ててくれたんだ。ありがたいな」
「そうだったんすか……。あ、そうだ、シルバー先輩!」
 お誕生日おめでとうございます、と続けようとした僕の言葉は、シルバー先輩の人差し指で遮られた。
「それは、まだだ。……デュース、こちらへ」
 シルバー先輩に手を引かれ、茨の庭を抜ける。
 すると、一気に視界が開けて。ディアソムニア寮のガーデンに、パーティ会場が設営されていた。
「ようやく主賓のご到着か? どれ、では僕もシルバーのためにひとつ贈り物を」
 ドラコニア先輩が一歩前に出て、僕に魔法をかける。
 僕はあっという間に、シルバー先輩と揃いのドレスにされてしまった。
「準備は整ったな。ダンスの時間だ。心往くまで、楽しむと良い」
 そうして僕はわけもわからないまま、シルバー先輩においでと手を引かれ、パーティ会場の真ん中に置かれたステージで踊ることになる。
 ドラコニア先輩の奏でるピアノに合わせて、ダンスが始まるけど、僕は困惑してしまった。
「ぼ、僕、社交ダンスなんて踊れませんよ!?」
「大丈夫だ。俺がエスコートする。ほら、リラックスして、会場を見回してみろ」
 すると、パーティ会場には今日一緒にいた面々、エペルやエースや、監督生。ローズハート寮長に、ジャックまでいたりして。ピアノを演奏しているドラコニア先輩はもちろん、白いバラの花びらをバスケットに持っているセベクも、それを笑って見ているヴァンルージュ先輩などのディアソムニアの面子も。アジーム先輩にバイパー先輩、ブッチ先輩など、僕の知ってる人も知らない人も、大勢がいる。
 ……きっとあれは皆、シルバー先輩の誕生日を祝うために集まってくれた人たちだ。
 僕はシルバー先輩がたくさんの人に愛されてることが嬉しくなって、笑いながら問いかける。ステップはシルバー先輩に促されるままの適当なものだけど、それでもギリギリ形になってる気はした。
「シルバー先輩、朝からずっとイタズラしようって思ってたんですか?」
「そうだ。誕生日というのは、自分が祝われるだけでなく、改めて周囲に感謝をする日でもある。今年は、お前という新しく迎えた大切な人に、俺からたくさんの気持ちと嬉しさと、少しの驚きを返したいと思った。それを親父殿やマレウス様に相談すると、いろいろなアイディアを出してくださった」
「いろんなやつを巻き込みましたね?」
「ああ。せっかくの誕生日なんだから、とみな快諾してくれた。俺は本当に、良い友人たちを持った」
「ったく……。僕は朝一番におめでとうって言おう、って、意気込んでたんですよ」
「ふっ、すまない」
「ドラコニア先輩たちには祝ってもらえましたか?」
「ああ。マレウス様、親父殿、セベクには、朝からチョコレートを置いておくイタズラを決行したのだが。……ルームメイトに頼み込んで早く起こしてもらったのに、みんな俺よりも早起きで……ただ、チョコレートを渡しただけになってしまった」
「ははっ、それもなんだか先輩らしいですね」
 笑いながらお喋りしつつ、くるくると回っていると、やがて音楽が止まる。
 一度身体を離すと、礼をされたので、慌てて同じように礼を返した。
 顔を上げると、シルバー先輩がほほ笑んで言う。
「改めて……デュース。今一度、祝いの言葉をもらっても、いいだろうか。今、この場で……」
「……」
 僕は、思いっきり気合を入れた。今日一番の、とびっきりの気合いを、だ。
 だって、ここでキメなきゃ男じゃねえ!!
「はいっ!! お誕生日おめでとうございますっ、シルバー先輩っ!! 生まれてきてくれて、ありがとうございます!!」
 その言葉を皮切りに、会場はたくさんの歓声と拍手に包まれ、拍手は鳴りやまず、宴は終わらず。
 夢のような一夜は、いつまでも続いた。

 ――パーティのあと。
 僕は「今日はお前を帰したくない」という鶴の一声で、シルバー先輩の部屋に泊まることになった。
 同じベッドで眠るシルバー先輩の頬を撫でて、僕は言う。
「……自分の誕生日なのに、僕をこんなに喜ばせてどうするんですか、ったく」
 満足そうに眠るシルバー先輩の額に、そっとキスをする。
「これからもよろしくお願いします。おやすみなさい、シルバー先輩」
 今日がシルバー先輩にとって、幸せで楽しい日だったならいいな。そう思いながら、僕もシルバー先輩の隣で目を閉じた。

*おしまい

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