※シルデュ付き合ってる設定です。紅銀親子のことをデュースはなんとなく知っています。
※フェローさんの口調と話術が分からなくて、度々迷子になっています。フェロー初心者なので、間違っていたらすいません。
※フェロー・オネストという存在に夢を見すぎかもしれない。
※ギデ(→)フェロとシルデュの絡みが見たかっただけなのでやりたい放題。なんでも許せる人向け。
※フェローパソストのネタバレあり。
大丈夫な方はスクロール↓
――リンゴンと鳴るチャイム、飛び回る小鳥、駆けまわる動物たち。いつも通りのナイトレイブンカレッジ。そんなナイトレイブンカレッジに、いつも通りではない影が二つあった。
「それじゃ、ちょいとお邪魔させてもらうとするかねえ。……待ってろよ、ナイトレイブンカレッジ、そして……学者さんたち!」
*
一方その頃、学園裏の森では――
「すまないな、いつもこのように時間を取ってやれなくて」
「いえ、いいんです。先輩は忙しい人なんだって、ちゃんと分かってますから。……こうやって少しの間だけでも、僕のために時間取ってくれるだけでありがたいし、めちゃくちゃ嬉しいです」
「……ありがとう、デュース」
シルバーの手が、デュースの顎を引く。デュースが目を閉じ、シルバーのくちづけを受け入れようとした瞬間――それは現れた。
「おおっと! こいつはいけねえ、邪魔しちまった!!」
「なんっ、だっ、誰だ!?」
思わず飛び退いたデュースと、すぐにデュースを後ろに庇い警戒態勢に入るシルバー。そんな二人を見て、慌てて幸せな空間の闖入者――狐の獣人であるフェロー・オネストは、両手をあげて降参してみせた。
「おおっと、怪しいものではありやせん! ちょいと学園長さんにお願いして、学校見学させてもらってるだけのしがない男です! なあギデル?」
「どう見てもうさん臭いだろ!」
こくこくと頷くギデルの様子を見て、デュースがツッコミを入れると、シルバーが何か思い当たったという顔をした。
「……待て。その少年はギデルと言うのか? ならば……。親父殿の話にあった、ギデルという猫の獣人属の少年を連れた、フェロー・オネストという狐の獣人属の男とは、お前のことか」
「おお! これはさすが高名なナイトレイブンカレッジの学者さん、このちんけな俺のことなんかをご存知でいらっしゃる!」
「ああ。そのようにへりくだる姿を見せながら、その裏で、奇妙な遊園地の力を使い、おや……リリア先輩を無力化し、あまつさえ人形として売り飛ばそうとしたと聞いているが?」
あ、先輩怒ってるな。デュースは直感した。いわば父親が売り飛ばされるところだった、その仇が目の前にいるのだから、さもありなんというところである。
「ま、待った待った! 俺は今、何もする気はありませんって! ただ本当に、学校ってものが実際どんなものなのかを見に来ただけ。その証拠に、今はなんにもしてやしないだろ? なあ、ギデル? 俺たちなーんにも、悪いことしてないよな?」
ギデルはこくこくと頷いている。しかし、シルバーの視線は厳しくなるばかりだ。
「……」
「そう睨まないでくださいって!」
「先輩……どうします?」
デュースの言葉に、シルバーはふうと溜め息をついた。
「事の顛末は、リリア先輩から聞いている。……確か、悪事に手を染めるのはやめて、新たに学校を作ろうとしているんだ、と。今回、ナイトレイブンカレッジに潜り込んだのはそのためか?」
「はいはいはい、仰る通りで! いやあ、さすがナイトレイブンカレッジの学者さんだ!!」
「……少しでも奇妙な真似をしたら、即座に叩き斬る」
「ひぇっ、肝に銘じまさぁ……」
分かったならもう行け、とシルバーが告げると、お邪魔しましたぁ、とフェローとギデルはスタコラと足早に去っていく。妙な連中がうろついているようだから、お前も気をつけろ、とシルバーがデュースに告げると、はい、とデュースは答えた。
それからのこと。フェローとギデルは食堂で多少の昼食をくすね、学園裏の森近くで昼飯にありつきながら、ぼやいていた。
「だーかーら、ギデル。そうじゃねえって。お前、何度言って聞かせたらOILって文字を覚えるんだ? ほら、こないだも教えたろ。この文字はO。オレンジは丸いだろ、だからオレンジのOなんだ……」
フェローは地面に木の棒で文字を書いて、ギデルにひとつずつアルファベットを教えていく。その様子を、影で見ている人物があった。デュースだ。目ざとくその気配を見つけたフェローは、砂を払って立ち上がる。
「……」
「おっと! これはナイトレイブンカレッジの学者さんじゃないですか。何か、俺たちにご用事で?」
「いや……感心してたんだ。その、教え方がすごく、分かりやすかったから」
「またまた、これはご謙遜を。こんな立派な学校でお勉強してらっしゃる学者さんが、こんなにもちんけで学のない、俺なんかの授業で満足をするとでも?」
「そっ……それは、その。……他の人たちは、そうかもしれないな……」
肩を落とすデュースに、フェローとギデルは顔を見合わせる。
「他の人たちは……と、いうと?」
「アンタたちに言うことでもないが……。僕は、この学園で、たぶん一、二を争う馬鹿だからな。たくさん勉強しても、テストの成績もいつも下位だし、要領も悪いし。優等生を目指しちゃいるけど、今だって……また、補習になりそうで」
落ち込んだ様子のデュースの傍にギデルが寄っていき、ぐいぐいと袖を引っ張った。
「え、何? なんだ?」
「おお。どうやらギデルの奴、アンタに教えを請いたいらしい。いやはや、これも良い機会! どれ、あの名門ナイトレイブンカレッジの学者さんの授業だ。ぜひともちっとばかし勉強させてもらいましょうかね」
「え、いや、僕に教えられることなんて……っ!」
デュースが止める間もなく、フェローとギデルへの授業は始まってしまう。フェローはスティックを回し、宣誓する。
「結構、結構! 君は今から俺たちに勉強を教える優等生の役だ! アドリブ歓迎……、 GO! ShowTime!」
「い、いや、そんなこと言われたところで……、って、待て! その教科書、逆さまだろ!」
「おおっと、こいつは失敬!」
フェローはくるりと大げさな様子で、教科書を正しい位置に戻す。そんな様子を見て、デュースは呆れた溜め息をついた。
「……馬鹿にしてるのか?」
「いやいや、まさか! ……本当に、馬鹿にしてるわけでもなく分からないんだと言ったら、どうするんだ?」
「え?」
「君は例えば、アルファベットのAが逆さを向いていたら、当たり前のように分かる。だけどギデル、コイツを見てみろ! まだ文字の覚えも悪くて、アルファベットのAが逆さだろうと、テキストが反対を向いていようと、わかりゃしない。……俺も似たようなもんだ」
「あ……」
「それは何故か? 学校で学べなかったからだ。でも、ええと、……すまないね、お名前は?」
「あ、えっと……。デュース。デュースだ」
「そう、デュースくん! 君が今、俺たちに教科書がまず逆さだと教えてくれたのは、君がちゃんと学校で授業を受けて、アルファベットの向きさえ学んできたからに他ならない。違うか?」
「あ……」
「せっかく学びを得るチャンスを与えられているのに、ちっと転んだくらいで腐って、その機会を不意にするのは良くないと思うぜ。それこそ、本物の馬鹿、笑いもできない愚か者ってやつだ」
デュースは思わず、涙ぐみそうになる。まさかこんなところで、誰かに自分の過去の頑張りを認めてもらえるとは思わなかったからだ。だけど、同時に胸が痛んだ。
「ありがとう。でも、僕はその褒め言葉には、値しない奴だ。確かに、エレメンタリースクールのはじめの方や、今は、ちょっとは勉強を頑張ってるって言ってもいいのかもしれない。でも、アンタの言う通り、ミドルスクールの頃は……僕は、学校でちゃんと授業を受けることも、がむしゃらに勉強して頑張ることの価値も、自分のやりたいことをするためには、そういうことが大事なんだってことすら何も分かってない、本物の馬鹿だったんだ」
ごめんな、他の人は本当に偉い学者さんで、もっといろんなことを教えられるかもしれないけど、僕は違うんだ、とデュースは言う。フェローは、その姿を見て、何か思うところがあるような気がした。
「……あんたは、他の奴よりもちょいと早く、何よりも大事な学びを得ているんだな」
「え?」
「よし、気に入った。なあ、デュースくん。俺たちはしばらくこの学園にいるつもりだから、手が空いたときでいい。このワケのわからねえ教科書を紐解くのを、ちょいと手伝ってくれないか?」
「い、いや、それは僕なんかより、アーシェングロット先輩とか、すごく分かりやすいノートを書く人が……」
「ここで会えた偶然も、運命ってやつだ。だからお前さんがいいのさ。ダメかい?」
「……そこまで言われたら……さすがに、嫌だとばかりも言ってられねえよな。分かった、僕で良ければ!」
「ありがたい!」
こうしてデュースとフェロー、そしてギデルの奇妙な会合が始まる。影で三人の様子を見守っていたシルバーは、口元を少しだけ緩めたのだった。
後日。堂々と図書館の端に忍び込んでいるギデルとフェローの前に、デュースはいた。
「お前さん、また追加の課題を出されたのかい? やれやれ、才能にあふれた偉い学者さんたちの集まりだとばかり思ってたが、アンタみたいなのもいるんだねえ」
「くっ、言わないでくれ……」
「ま、いいさ。お陰で俺たちが、あの高名なナイトレイブンカレッジの授業の片鱗をのぞき見できるんだ。ありがたーく見せてもらうとしようか、なあギデル?」
こくこくとうなずき、ギデルはデュースに出された追加の課題のプリントを見ている。と言っても、上下すら分からずクルクルと回しているだけだが。
「ギデル、これはプリントって言って、ええと、勉強が分からなかったときに追加で出されるものなんだ……。こっちが上で、こっちが下。まずはこうやって、名前を書いて……」
とりあえず課題をやる様子を見せればいいのかとデュースはギデルとフェローの目の前で課題を解いてみせようとする。
「あ、待て待て、ギデル。机に文字を書いちゃダメだ。書くなら、このノートにしよう。ペンも一本くらいなら渡せるから」
ノートとペンを受け取ったギデルは、喜んでフェローに見せる。
「おお、こりゃ太っ腹だ。ありがたいねえ」
「何か教えるにしても、ノートとペンくらいはないとやりづらいからな。好きに使ってくれ」
で、ええと、とデュースは言う。
「まずは自分の名前書いた方がいいと思うぞ、ギデル。ほら、この字を真似して書いてみてくれ」
デュースはノートの端にギデルの名前を綴った紙を渡した。ギデルは素直にその形を真似ている。ギデルの書いた名前はガタガタでよれ気味だが、なんとか読めなくもなさそうだ。
「なるほど、まずはしっかりとした手本を見せて、形を覚えさせるのもアリってやつだな」
フェローは本心から感心した様子で、デュースの教え方を見ている。デュースはそれを見る度に、困った顔をしてしまう。
「……本当に僕でいいのか? 前にも言ったけど、アーシェングロット先輩っていう、本当に、僕でもテスト90点以上取れちまうようなノートを作れる、小さな頃からずっと本気で努力してきた、教え方のうまい人だっているんだ。他にも、ローズハート寮長も、僕の同級生ですら、僕よりも上手に教えられるやつはたくさんいるのに……」
自分のことも満足にやりこなせない僕が教えるんじゃ、時間だって余計にかかっちまうだろ、とデュースは言う。
「いいさ。こう言っちゃなんだが、いわゆる『本物』の学者さんたちじゃ、俺たちとはとてもレベルが違いすぎて、きっと最初のAから、何を言ってるのかさえ、きっと分かりっこない。ある意味、君が先生だから俺たちはついていけてるのさ」
「嬉しいような、悲しいような……」
そんなことを話していると、シルバーが近づいてきた。
「デュース。一緒してもいいか?」
「あ、はい。僕は大丈夫、です、けど……」
デュースがちらりとフェローとギデルの方を見る。二人とはあまり仲良くしたくはなさそうだったが、大丈夫だろうかと。
「……心配するな。ここ数日、お前たちの様子を見ていた。だから、俺も協力したいと思ったんだ」
「お? それはつまり、俺たちに教えを与えてくれる学者先生が増えるってことかい?」
「そう思ってくれていい。お前たちが妙な気を起こさない限りは、俺もお前たちの学びを手伝おう」
デュースにも自分の課題をやる時間が必要だろうからな、それを手伝いたいのが理由だとシルバーは言ってみせた。
「なるほど、そりゃあありがたいことだ! ギデル、しっかり教えてもらえよ。俺は横で見ているから」
「あなたは実際にやってはみないのか?」
「文字だの算数だのは、俺よりもギデルの方が覚えが悪いんでね。ノートが一冊あるのなら、俺がスペース占領しちまうよりも、ギデルにその分書かせた方がいいのさ」
「……そうか」
シルバーはふと、ギデルはあなたにとってなんなのか、と尋ねようかと思った。けれど、二人の様子を見ている限り、それを聞くのは野暮なのだろう、と、シルバーは言葉をつぐんだ。
「では、続きを始めよう」
その言葉で、再び奇妙な授業は始まった。
そうして、いつの間にやら。早く課題が済んだからと、丁寧にギデルへ文字を教えるシルバーの姿と、出された課題が分からないとうなるデュースに、分からないなりに教科書をめくりながら、これを使うんじゃないのかい、こっちはどうだいと話しかけるフェローの姿があった。
「違うな……。そのページは前、ローズハート寮長に、このときは使わないって言われた。こっちはエペルから、間違いやすい材料だって教えてもらったはずだ……」
それでも何故か載ってるはずの答えが見つからない、とひたすら二人でページをめくるのは、デュースとフェローだ。
「うう、もう諦めたい……やっぱり、僕なんかじゃ……」
デュースが弱音を吐く。その瞬間、ぴり、とフェローの雰囲気が変わった。魔法を使うつもりか、とシルバーが一瞬、警戒する。フェローは後ろ手にスティックを回し、小さな声で呪文を詠唱した。
「『カモン・トゥー・ザ・シアター。薔薇色の夢(ライフ・イズ・ファン)』」
そしてフェローはデュースを励ます。
「まだ諦めるには早いぜ! お前さんならやれるさ、なあ?」
「そう……だな、確かに! なんか、やる気出てきた気がする! まだイケるよな、僕! 頑張れ!!」
そうして二人はまた分厚いテキストをめくり始める。シルバーは、確か親父殿が言っていたフェローのユニーク魔法の効能は、と考えて、腰元の警棒にかけた手をそっと外した。そして、とうとう。
「写真が近い! これじゃないか!?」
「それか……? ……それだ!!」
フェローが見せたページを見て、デュースはうなずく。そして、ようやく課題の最後を書きつけた。
「できた! できたぞ、ありがとうフェロー!!」
「やったなあ、オイ! やればできるじゃねえかお前さん!!」
妙に高揚している二人を見て、シルバーとギデルは目を合わせてほほ笑み合う。
「なあ、ギデルと言ったか。彼……フェローは、君の大切な人なのだろう」
「!」
嬉しそうにこくりと大きくギデルはうなずく。
「どんな人にも、大切な人はいるものだな。そしてやはりその気持ちは、より良い道を選ぶための道しるべとなる。君たちを見ていると、俺はそう思える」
シルバーの言葉は難しかったらしく、ギデルは首をかしげていたが、悪いことは言われていないと思ったので、とりあえず頷いておいたようだ。シルバーはそんなギデルを見て、ふっと笑った。
(デュースも昔、悪いことをしていたと言っていた。だが、デュースも、彼らも。大切な人のためになら、より良い道を選べるんだ。そうした道の先で行われる彼らの頑張りが、何よりの、彼らの犯した過ちの償いとなっていけばいい)
シルバーのそんな願いは、誰が知ることもなかった。
そんな日々を過ごしたのも束の間。ある日突然、シルバーとデュースの前で校門に立つフェローが別れを告げた。
「授業の途中で申し訳ねえが、そろそろお暇しないと俺たちの身が危なくってね」
「えっ、もう行っちまうのか? そっかあ……」
せっかく仲良くなれたのにな、とデュースは残念そうな声をあげる。
「大丈夫。生きてりゃまた会えるさ。それに、ひとつの場所に縛られてるのは、俺たちらしくないんでね」
「そうか。それなら、仕方ないよな」
「ああ。それに、俺たちはいつだって会える。君が俺たちから得た学び、俺たちが君から得た学び、それは一生モノだ。……なんてね、ちょいと気障ったらしいことを言わせてもらったが……特に、デュースくん」
「なんだ?」
「俺でさえ名前を聞いたことがあった、希代のワルだった君が、いつか本当の学者さんの中でもとびきりの優等生として認められる日が来れば……。俺たちみたいな悪ガキの、ちったぁマシな道に戻って、まっとうなフリしてやってける希望にもなるだろう。それに君は、ちょいとばかしギデルに似ている。君を見ていると、こいつも俺も、ずっともっと、賢く強くなれる気がするよ。……君の名前が俺のところまで届く日のことを、期待している」
「そんな……」
「ファハハ、すべてが本心とは言わないがな!」
「って、オイ!」
それからフェローはシルバーとデュースの二人を見て、ぺこりと仰々しいお辞儀をする。
「さて、今回のショーは俺たちにとっても非常に楽しいものだった! たくさんの学びを受けた俺たちから、学者さんたちに最後のご挨拶だ。Show Must Go On, 笑って手を振ってくれ!」
大きく手を振るフェローとギデルに、シルバーとデュースも大きく振り返す。
「さあ、名残惜しいが、行くぞ、ギデル。俺たちはどこにでも行けるんだから。何せ人生ってのはどこまでも自由で、楽しくなくっちゃだからなあ!」
もう一度だけ手を振り、お辞儀をすると、フェローは口笛を吹きながら去っていき、ギデルはそれについていく。
二人の背中が見えなくなると、デュースは淋しそうに手を下ろした。
「またどこかで、会えるといいな」
「……きっと会える。次は、彼らの作った学校で」
「ははっ。そうなったら、何かの形で……また、何かの教室でも、できるといいな。今度はもっと、分かりやすいやつを。しっかりと、教えてやれるといい」
「ああ。その日のために、今は……俺たちも、日々、研鑽していこう」
そうしてシルバーとデュースは、フェローはこれから一体どんな先生になるだろうか、と談笑しながら校門を立ち去っていく。こうして、シルバーとデュースが奇妙な訪問者と繰り広げた不可思議な一幕は、今その幕を閉じるのだった。
*おしまい
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