*こちらは吸血鬼+怪盗シルバー×探偵助手デュースのパロディ作品です。
*このため、口調が呼びタメになっています
*「月灯かりの狂詩曲」の続編です。
*相変わらずやりたい放題です。なんでも許せる人向け。
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――前回、吸血鬼怪盗「ヴァンルージュ」からの予告状が届き、僕が吸血鬼の仲間にされてから、2週間が経とうとしていた。
あれから、いろいろと変わった。吸血鬼に詳しいお医者さんが言うには、太陽の下を長時間歩くのはやめた方がいいだろう、歩くなら日傘やフードをした方がいいだろう、って言われたり。三週間から一か月に一度は200ミリリットル程度の血を飲んだ方がいい、と言われたり。そんな感じで、吸血鬼としての僕の暮らしは始まった。
僕はそんな中、不満を持つ。昼間、長い時間を出かけられなくなったから、銀行とか郵便局にも行きにくくなった。
お医者さんの言う通り、日傘やフードを持てば少しくらいは出かけられはするから、ギリギリなんとかなってるけどさ……。
でも、普通にちょっと昼間のカフェに寄ってテラス席でのんびりしたり、明るい太陽の下でいろんなところを散歩したり寄り道したり、公園をランニングしたり、みたいな。そういう僕のちょっとした趣味だった楽しみは、できなくなった。
それで、昼間はあんまり外に出られないから、眠ったり、家事をしたり。事務所での事務仕事をひたすら手伝ったりしている。
「命と引き換えとはいえ、これはこれでちょっと退屈だよなあ」
そんなことを呟くと、エースが言った。エースは、僕と同じ立場の探偵助手だ。あんまり真面目に働いてるとは言えないが。
「贅沢言うなって。お前が昼間買い物とか行けなくなったから、オレの方に雑用が回ってきてんだよ?」
「それは悪かったかもしれないが、僕のせいじゃないしな」
ったく、ヴァンルージュも余計なことするよなー、とエースはぼやく。……まあ、そう言いたいのも分からなくはないが。
「どっちにしろ僕の余命は短かったんだし、そのうち雑用はお前にお鉢が回ってきてただろ」
「……まあ、それもそうね」
少しばつが悪かったのか、気まずそうにエースが答える。そんな僕らの会話を黙って聞いていた、ローズハート事務所長は告げた。
「デュース。今度、この辺りで夜市があるそうだよ。昼間に遊べなくて退屈なら、夜、遊びに行ってみてはどうかな」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「ああ。ストレスを溜めるのは良くないからね。遠慮せずに行っておいで」
そういうわけで、僕は夜市に行くことになった。
夜。僕は一応、フードのついたパーカーを着て、出かける。あまり遊びすぎて、太陽の光が射し込んできたときのことを考えて、だ。
「わあ……! 賑わってるな!」
並ぶ屋台、行き交う人々の賑わいと喧噪が、次々と耳に入って来る。
久々に思いっきり遊べるぞと僕はそれが嬉しくなって、夜市の中を駆けだした。
どの店から見ようかな、なんて雑踏の中を歩いていると、ふと、誰かにぶつかる。
「あっ、すいません――……って、お、お前! ヴァンルー……ッ!!」
「シッ」
名前をつい呼びかけると、ヴァンルージュは僕の口を人差し指でそっと閉じさせた。
「今日は呼ぶなら、名前で呼んでくれ。もう知ってるだろ?」
……それですぐに察する。どうやらコイツ、今日は怪盗の顔じゃないらしいな。
「お前、何してるんだこんなところで」
声を潜めて尋ねると、ヴァンルージュは答えた。
「今日は私用だ。俺の世話になっている真祖様が、屋敷に飾る飾りが欲しいと仰るのでな」
皆でそういった掘り出し物を手分けして探している、またついでに夜市をそれぞれ楽しんでいる、らしい。
「真祖ってなんだ?」
「吸血鬼の始祖、といえば分かるか? 人からなったのではなく、元から吸血鬼だった存在だ。基本的に俺たちよりも、とても強い。そして、偉い。それが分かっていれば十分だ」
僕はそれを聞いて、思った。そういえば、コイツ!
「そういえば、だ! ヴァン……、シルバー! お前、こないだ勝手に僕を吸血鬼にして! 血のこととか、昼間出かけられなくなったりとかして、大変だったんだぞ! するならするでちゃんといろいろ教えてけ!」
僕が文句を言うと、ヴァンルージュ、もといシルバーはぱちくりと目を瞬かせ、それから頷いた。
「それもそうだ。至極まっとうな文句だな。では責任を取って、今宵はいろいろ教えよう。……今宵の間は、俺を捕まえないでいてくれるならな? 見習い探偵さん」
そう言ってウィンクをするヴァンルージュに、僕は大きく溜め息を吐いて、これからの暮らしのためには仕方ないと、その条件を呑んだ。
「決まりだな。それじゃあ、吸血鬼らしく、夜のデートと洒落こもうか」
「えっ、ちょっ! どこ連れてくんだお前!」
それから僕は連れていかれた先の、なんだかやけに高そうなブランドショップで。
「彼に、あちらの服を」
「かしこまりました」
僕はあれよという間に、着せ替えられてしまった。なんだか薄紫のふわふわしたストールと、太陽のロゴマークや金の飾りがあちこちについた、柔らかそうなシフォン素材の服だ。
何故か、長髪に見えるウィッグまでかぶせられて、ガッツリとヘアアレンジまでされてしまった。
「似合っているぞ」
ヴァンルージュは満足そうに笑うと、なんかのカードでさっと支払いを済ませ、僕の手を引き夜の街へと連れ出した。
「さあ、今夜を楽しもうか!」
そう言って僕の手を引きはしゃぐヴァンルージュは、まるで無邪気な子どものように笑っていて。
……そんな顔もできるんだな、コイツ、と。少しだけ、絆されそうになってしまった。
ヴァンルージュはそんな僕の気持ちを知ってか知らずか、楽しそうに雑貨の屋台を見回り始める。
「見ろ、ドリームキャッチャーだ。君は夢を見るか? 吸血鬼でも夢は見る。特に、愛しい人の夢を見ることが多い、ロマンチックな吸血鬼は」
「アンタはどうなんだ?」
「俺はよく眠るからな。どんな夢でも見る。ちなみに俺はあまりロマンチックな方ではない」
「嘘だろ、いつもあんなキザなのにか!?」
それから、食べ物の屋台も見回る。その中で、ヴァンルージュは僕に吸血鬼としてのいろはを教えてくれた。
「レバーの串焼きがあるな。喉が渇いた時、いざとなったら、動物の血でも代用できる。だから、出来るだけ普段からも、動物の肉は食べておくといい。俺たちは人の血を吸うが、絶対に人の血からしか摂取できない栄養があるわけじゃない。ただ、人の血がいちばん美味いだけだ」
「人の血は贅沢な嗜好品ってことかよ……」
「完全な嗜好品とは言えないな。たまには人の血を飲まないと、気が狂いそうになってしまうし。一滴も人の血を飲まず正気を保てるのは、3か月がやっとのところだろうな。……君の事務所にも、人間はいるだろう? あの探偵やら、赤毛の助手やら。いざとなったら、彼らから少しずつ血を分けてもらうといい。日頃から量を決めて練習しておいた方が、吸いすぎなくて丁度良く飲める」
「うっ、確かに。吸いすぎるのは嫌だな。気を付ける……」
「あの屋台の匂いがすごい? ……ああ、あれはニンニクを焼いたり、飾りに使っているな。別に弱点ではないが、俺たち吸血鬼にとっては若干、いやけっこう嫌なものだ。……君も嗅いで分かる通り、匂いが強いだろ。あれが苦手なんだ。顔を顰める程度のものだが」
「弱点じゃねえのかよ!」
「単に、好きじゃないだけだな。君も味覚が変わっていると思うぞ、いろいろ試すといい」
「確かに、前よりなんかトマトとかニンジンとか、赤いものが好きになった気はするな……」
「太陽の下で出歩けず、退屈だ? 医者から、フードや日傘でなんとかなる、と言われなかったか? ……ああ、すぐに喉が渇くのか。そういうときは、トマトジュースやワインを持ち歩いて飲むといい。気休めの非常食になる。できるだけ血のような、赤い飲み物がいいぞ。少しは気が紛れる。君がこの間くれた水も、助かったしな」
「水、苦手じゃないのか?」
「ただの水なら平気だ。そもそも、水が駄目なら血も飲めないだろう」
「それもそうなのか」
ふーん、吸血鬼にもいろいろあるんだな、と僕はうなずく。他にも、意外と鏡には映れるだとか、僕もコウモリになれるのか聞いてみたりしたら、君はまだ吸血鬼になったばかりだから、毎日練習してみてあと30年くらいはかかるだろうな、とか。それでもうっかり変身してしまったときの戻り方のコツとか。そういうのを、夜市を歩く中でいろいろと教わった。
夜市をぐるりと一周ほど回ってしまったあと。僕は噴水前のベンチに腰かけながら焼き串を食べる。
確かに、動物の肉が前より美味く感じる気がするな。それも、血が滴ってれば滴ってるほどいい。
僕、ほんとに吸血鬼のお仲間にされちまったんだなあと実感する。
ベンチの隣に座って、ほほ笑みながら僕を見つめるヴァンルージュに、僕は尋ねる。
「なんで、僕を吸血鬼の仲間にしようって思ったんだ。なったからって探偵はやめないぞ!」
「ああ、君はそれでいい。君は、それでいいんだ。そして、質問に答えるならば……」
ヴァンルージュは立ち上がり、僕の手から食べ終わった串を取ると、ぽいと紙袋に包んだそれをごみ箱に放った。
そして僕のことを抱え上げ、とんと大きく跳ね、夜空へと飛ぶ。
「さあ、星空散歩と洒落こもうか!」
「えっ、ちょ、待て! 僕まだ飛べないってさっき……!!」
「ああ、だから俺が抱えていく。さあ、景色を見てみろ」
ヴァンルージュに抱えられ、しっかりと捕まっていろ、という言葉通りにしがみつき、改めて景色を見渡す。
「わあ……!」
すると空を飛ぶ僕らのずっと下の方では、夜市の灯かりと行き交う人々がちらちらと光って、とても綺麗な夜景が見えた。
「な、人間たちの営みを上から見下ろすのも、案外綺麗だろ?」
「……うん、すごい! すごく綺麗だ! ありがとう、シルバー!!」
「どういたしまして」
それからヴァンルージュは、ビルの屋根から屋根へと伝い飛んで、僕の住み込む探偵事務所の上でようやく僕を腕から下ろした。
「では、今夜はここでお別れだな、見習い探偵さん」
「……今日は特別だからな! 次は絶対、捕まえてやるんだからな!?」
そう言って指さす僕の手をじっと見つめて、それからヴァンルージュは言った。
「そういえば、先ほどの質問に答えていなかったな。何故、君を吸血鬼の仲間にしたのか、と」
「そ、そうだ! なんでだ!? 言っとくけど僕は探偵事務所の人たちを裏切ったりしないからな!!」
「それでかまわない、と言ったろう、まったく。俺が、君を吸血鬼にしたのは……」
ヴァンルージュは、どこからか取り出したマントをひらめかせ、一瞬で召し替える。
どこかの国の王子様のような、騎士のような、そんな衣装を纏って、ヴァンルージュは僕の前にひざまずき、そして、手を取りくちづけた。
――僕が吸血鬼にされた、あの日と同じように。
「君のことが、好きだからだ。見習い探偵さん」
そうして、ヴァンルージュは立ち上がり、僕の顎を指先で引いて、キスをする。
今度も、動けなかった。今度は、ヴァンルージュの目は妖しく光ったりしてなくて。
魅了の魔法なんか、かけられてもなかったはずなのに。
熱くて優しいキスが唇に降りてきて、僕はそれを受け入れざるを得ない気がした。
「だっ、だから僕をからかうな! お前!」
すぐにハッと気がついて、慌てて僕が少しヴァンルージュの身体を押し返すと、ヴァンルージュは笑った。
「はは、もうすぐ日が昇る。家の前まで送ってやるから、今日はこの辺で。また会おうな、見習い探偵さん」
そうして、瞬きをする。すると、いつの間にか僕はビルを降りて探偵事務所の玄関前に移動させられていて。
怪盗ヴァンルージュの姿は、跡形もなく消え去っていた。
僕はそこで、唇を手で隠し、ひとり考える。
(アイツ、まさかそのうち、僕の心とか盗むつもりじゃ……。いやいや! まさか、まさかな……。ってか、絶対、絶対盗まれたりなんか、しない、からな……!? あの、キス、とか。毎回いちいち、覚えて、ないし! ……まさか、だよな)
あんな奴にドキドキさせられ始めてるなんて、そんなワケない。そんなはずないんだと思いながら、僕は。
この恰好、どう言い訳しよう、と思いつつ。昇る朝陽から逃げ出すように、事務所の中へと駆け込むのだった。
*おしまい
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