・リクエスト『セベデュVSシルデュでバチバチ取り合う話』を書いてみました。
・とはいえバチバチ詐欺です。そんなに争ってない。単にアピール合戦になってしまいました。
・最初から最後までシルバー優勢気味です。セベデュ派の方には申し訳ありません。
以上大丈夫な方はスクロール↓
世間は泣く子も黙るバレンタイン当日。男子校の僕らにはあんまり関係ない話題だよなーってエースやグリムとダベっていたときのことだった。
「1年A組デュース・スペード!! ちょっと来い!!」
いきなりの大声で呼び出され、僕はビックリする。声の主は、この学園で一番レベルの声量の持ち主であろう、D組のセベク・ジグボルトだ。
「お前、セベクに呼び出されるって、今度は何やらかしたわけ? マレウス先輩に粗相でもした?」
エースの疑問に、うっと唸る。た、確かに、知らない間にセベクの異常なほど敬愛する主君であるドラコニア先輩に、悪さしちまってたのかもしれねえ。
「わ、わかんねえ。でも、その可能性がある限り無視するわけにはいかないよな。……よし、行ってくる……!」
気合を入れてセベクの元へ行くと、セベクは来い、と僕の手を引いて人気のない場所へ連れて行った。な、何だ? タイマンか? ならとことんまでやってやろうじゃねえか! いや待てよその前にまずワケを聞かねえと……。なんて僕が考えてるのを知ってか知らずか、セベクはそのうち、ある場所で振り向き、ずい、と僕に何かを差し出した。さっきまで持ってなかったよな、召喚術か?
で、渡されたものは。
「これ……花束、か?」
黄緑の薔薇の花束だ。僕にこれを? とわけのわからなさに驚いていると、セベクは真っ赤な顔で言った。
「……単刀直入に言う。デュース・スペード!! 僕は……お前が好きだ!! これは、愛の告白である!!!」
「……はあっ!?」
一呼吸置いて、僕は驚きの声を上げる。な、なんで。僕に!? 『あの』ドラコニア先輩異常敬愛者のセベクが!? そんな僕の疑問はそのまま口をついて出ていく。
「なんで僕なんだよ!? お前、ドラコニア先輩はどうした!?」
「そ、それはその……。ま、まず、マレウス様への想いは畏敬と畏怖と尊敬の念であり、恋愛ではない! で、ええと……」
「ええと、なんだ?」
「……」
セベクは赤くなったまま黙ってしまう。なんか言えよ、なんも言わねえとわかんねえだろ!! だから、その、つまり、ええと、と煮え切らない言葉ばかり零すセベクに、僕はちょっと呆れた。
「何も言わねえなら振るぞ!!」
「ま、待て!! お前を好きになったきっかけ、だろう!! 分かっている、ただ口に出来ないだけだっ!! ……その、だから……この間、お前のつるんでいる連中と共に出かけただろう!!」
「ああ、エースとかオルトとか、一年生6人で出かけたときのことか。確かカラオケに行ったんだっけな。それがどうしたんだ?」
「その、お前は……。すごく、うまそうに、飯を食っていた……。オムライス、を……」
「そ、それだけ、か?」
「違う! いや、それもそうなのだが、この話にはまだ続きがあって……!」
セベクの話を要約すると、こうだった。一年生6人でカラオケに行って、小腹が空いた僕はオムライスを注文して、食べた。セベクや他のやつも小腹が空いてたから、なんかポテトとかたこ焼きとか、いろいろ適当に頼んで食べてた。
そのとき僕が、すごく美味そうに食べてるから、良い食べっぷりだと思って見ていたら、僕から手が伸びてきて。
『セベク、頬にケチャップついてんぞ。お前、案外そそっかしいんだな』って笑われて。
ドラコニア先輩にこの後また会うんだろ、しゃんとしてないとなって言われたのが嬉しくて、恋に落ちたんだと。
「……なんか、単純じゃないか?」
「理由はともかく、僕は今や貴様のことが好きになったのだ!! だが、貴様と来たら、今も見ての通り、僕のことを男としてまったく意識していない!! だから、その……」
「バレンタインデーにかこつけて、告らせてもらったぜ、ってことか……」
「……そういうことだ! だから、今返事はいらん! 僕に振り向く気になったら、返事を貰おう!!」
「なんで告ってるのに偉そうなんだテメェは!!」
「う、うるさい! 僕だって緊張しているのだ!!」
本当に告白現場なのかこれはという賑やかさで(まあ照れや気恥ずかしさを誤魔化す目的もちょっとはあったと思うけど)、過ごす僕たちを、校舎の窓から眺めている影があった。
「そうか。……アイツが動いたのなら、油断してはいられないな」
遠くから僕らの様子を眺めていた影は、廊下の奥へ、ふっと姿を消した。
昼休み。僕は、セベクからの告白どうしようかな、なんて軽く悩みながら、とある場所へと向かっていた。それは、最近見つけた穴場だ。学園裏の森にある湖の一角で、そのほとりに、一本だけ綺麗に咲く若い桜の木が目印。魔法がかかってるのかなんなのか、常にずっとこの木だけ、春みたいに桜が咲き続けていて、とても綺麗だ。
そこはエースやグリムなど、うるさいクラスメイトに邪魔されず一人になりたいとき、僕がよく使っている場所だ。そして今日もその例に漏れず、一人で静かな場所に行きたくてそこへ行った。
するとそこには、先客がいた。だけど、僕はそこに、その人がいるかもしれないということを知っていた。前から時々、その人とはこの場所で会っていたから。
そして、その人がいるからと言って、予定を変えることもない。その人は、僕がひとりで落ち着いて考えたいと思うのを、邪魔する人ではないと知っていたから。
だから、僕はその人――シルバー先輩に挨拶をした。
「シルバー先輩。来てたんですね、こんにちは」
「ああ……デュースか」
シルバー先輩は、ウサギを撫でていた。大体いつもこの場所にいるとき、先輩はリスとか小鳥とか、小動物に絡まれてるんだよな。なんか、見てて癒される。
「今日も悩みごとか?」
「ま、まあ、ハイ、ちょっと……」
今日の悩みは、セベクのことだ。シルバー先輩はセベクと同じディアソムニア寮で、確か剣の兄弟弟子でもあって、幼馴染でもあるから、仲も良かったと思う。それを考えると、シルバー先輩はセベクから何か聞いてるのかもな。
「今朝、セベクがお前に花束を渡しているのを見た。セベクの奴が、お前を困らせてはいないか?」
「す、鋭いですね……。確かに、悩みごとは、セベクのこと、なんですけど……」
図星すぎる指摘だ。シルバー先輩は、人の気持ちに聡いところがある。まるでその不思議なオーロラ色の瞳で、何もかもを見透かしてしまうような。
「そうか。……なら、学内ではさぞ落ち着かないことだろうな。……ああ、そうだ。デュース、ひとつ提案があるのだが」
「なんですか?」
「この場所は、俺とお前の……ふたりの秘密に、してしまわないか? セベクはもちろん、エースや監督生にも、内緒の場所だ」
そう言ってシルバー先輩は人差し指を口の前に当てる。その動作がなんだかとても綺麗で、見惚れてしまった。
「そ、そう、ですね。僕も、この場所は静かな方がいいですし……。それでいいと、思います」
「そうか。……良かった。だが、少しだけ……また、お前を困らせてしまうかもしれないな」
シルバー先輩は、穏やかにほほ笑んで、撫でられて心地良く眠たげなうさぎを膝に乗せながら、僕に言った。
「なんですか?」
「セベク、だけじゃない。俺も、お前のことが好きだ。だから……、知っていて、ほしい。俺の、この想いを」
お前を困らせたいわけではないから、返事は後回しでかまわない、とシルバー先輩は言う。
「ぅ、えぇ……?」
僕は、突然の憧れの先輩からの告白に、ただ顔を真っ赤にして何も言えなくなるばかりだった。
*
おかしい。シルバーの奴が、どこにも見当たらない。あの寝坊助め、どこで油を売っているのだ。と、思っていたら。シルバーが現れた。相変わらず寝ぐせのついた、気の抜けた髪で。
そんなことより、僕は胸騒ぎがした。デュースの姿も、昼休みの間、なかったからだ。
「シルバー、貴様、どこへ消えていた!!」
焦った声音を隠せず僕が尋ねると、シルバーは悪びれずにそれを言葉にした。
「デュースと会っていた。二人きりで」
この言葉を、僕は宣戦布告と捉えた。
「何? 貴様、それは僕の想いを知ってのことか? どうせ見ていたのだろう、今朝のことも」
「当然だろう。それで、何故、お前に遠慮する必要がある?」
シルバーは譲る気が一切ないようだ。ふん、いいだろう。
「昔から、取り合いになったオモチャくらいはお前に譲ってやっていたが……今度奪い合うのは、それとはワケが違う。俺はもう、子どもの頃のように、欲しいものをお前に譲ってやったりはしない」
「ふん、まだ手に入れたと決まったわけでもなかろうに、ぬけぬけと……。大層な自信家だな!」
その言葉がシルバーの琴線に触れたのか、シルバーは僕にこんな提案をしてきた。
「なら、デュース自身に決めてもらうか。俺とお前、どちらを選ぶのかを」
「いいだろう、その勝負乗ってやる!! 後悔するなよ!!」
「後悔するのは、お前の方だと思うがな」
かくして僕たちの間に戦いの火ぶたは斬って落とされた。様子を見ていたリリア様は何故か神妙に複雑そうな顔で僕たちを見守り、マレウス様は「これは愉快なことになっているな」と、鷹揚に笑みを湛えていらっしゃった。
*
「と、いうわけで。お前には急な話で悪いのだが、そういうわけで、セベクと勝負することになった。できれば、どちらを選ぶか決めて欲しい」
シルバー先輩が、あっけらかんとそんなことを言う。でも僕はそんなの、寝耳に水だ。それに勝負事なら、ルールを確認しとかないといけねえ。
「そ、それって……いつまで、とかあります?」
「そう、だな。お前の心が決まるまで、だろうか。俺か、セベクか。あるいは、他の誰か、に」
セベクはシルバー先輩の説明に補足することもないようで、隣でしかめっ面で腕を組んでいる。
「僕、何すればいいんですか……?」
「何も。ただ、素直に決めてくれればいい。お前の、心が動いたままに」
俺たちは俺たちで勝手にお前から好きになってもらえるよう努めるから、お前はただ、どちらを選ぶか、決めてくれればいいんだ。
そんなシルバー先輩のセリフに、セベクが、つまり貴様はただ僕とシルバーのどちらがお前に相応しいかを審査すればいいというだけの話だ、と付け足した。
僕はただ、これから何が起こるのかも分からないまま、とりあえず二人の事情は分かった、と流されるままになっていた……。
し、仕方ないだろ。どっちにするとか、そもそも……まだ、決め切れてなかったし。
逆に考えたら、チャンスかもと思ったんだ。この二人に告白されてる現状を、打破するための。だから、うん。ただ流されたんじゃない、はずだ。……大丈夫だよな、僕。
それから、シルバー先輩とセベクのアピール合戦は始まった。
まず最初に来たのは、セベクの方だった。
「なんだ、書類の運搬を頼まれたのか。ふん、貸してみろ。お前はそそっかしいからな、そんなに大量の書類を抱えては、転んでしまうだろう。半分持ってやる」
そうして僕から資料の半分を持っていくセベクに、僕は困惑する。
「お前、本気か? 僕の何が好きなんだ?」
「そっ、それはその……っ。貴様には関係ないっ!! だいたい、前に話しただろっ!!」
「こ、告白までしといて関係ないことあるかっ!!」
僕がそう言うと、セベクはそれもそうだと唸る。そうして、ぼそっと呟いた。小さいな、声。いつもの大声はどうした。
「……か、可愛かったんだ」
と、思っていたのも束の間。あまりにも予想外の一言に、僕はさすがに呆気にとられる。
「へ?」
「だから、可愛かったんだ!! お前が!! 文句あるかっ!!」
「な、ない……」
ふん、と照れ隠しに鼻を鳴らすセベクに、僕は、そう答えることしかできなかった。
なんだかしばらく、顔が熱くて、パタパタと手で扇いで冷ます羽目になった。
次に会ったのは、シルバー先輩だった。移動教室の途中、廊下で、バッタリ会った。
「ん、デュースか。こんなところで思いがけずお前に会えるとは……嬉しい限りだ」
「ぼ、僕も、嬉しくなくは、ないですっ……」
いつもなら僕もです、って元気に答えてるとこだけど、さすがに今の状況じゃ恥ずかしい。でも、シルバー先輩の目はそんな僕の隙を見逃さない。見逃してくれない。
「おや……もう、素直に喜んではくれないのか? いつものように」
「や、その……っ、」
ドキドキ、ドキマギしていると、僕たちの間を裂くような声がした。
「抜け駆けか? シルバー」
「セベク。邪魔だぞ。今、いいところだった」
「分かっている!! だから邪魔したんだ!!」
僕は、ちょっとホッとする。よ、良かった。セベクが来てくれて、なんか助かった気がする。
「デュース!! コイツにばかり心を動かしているのではないぞ!! 僕だって本気なのだからな!!」
「わ、分かってるって!!」
……アピールしてくれたセベクには悪いけど、シルバー先輩の言動に対する胸のドキドキは、しばらく治まらなかった。卑怯だと思う、あんな格好いい人、ずるいだろ……。
それから、僕はひとりでゆっくり考えたくて、秘密の場所へ行った。シルバー先輩がいるかもな、とは思ったけど、先輩は小鳥たちに髪をつついて遊ばれながら、眠っていた。その気が抜けた雰囲気に、なんかちょっと安心して、僕は隣に座り、考える。
……この場所や空気は静かで居心地よくて、好きなんだけど……。先輩が起きちゃったら、そうも言ってられないかもな。
うう、二人のこと、どうしよう……。シルバー先輩もセベクも、僕のこと本気で好きだってアピールしてくれるから、ちゃんと考えなきゃいけないけど。でも、まだ僕の心は……どっちをどうするって、決まってない。そもそも僕だって、恋なんか初めてなんだ!!
何が好きで何が好きじゃないかなんてそんなの分かるわけないだろ、と、花びらが散って波紋を打つ湖の水面を見て、お前はキラキラしてていいよな、と溜め息をこぼした。
*
……隣に、デュースがいる。ふと、誰かの気配に目が覚めた。だが、俺はそのまま、眠ったふりを続けた。デュースは、とても真剣に、悩んでいるようだったから。その、物思いに耽る横顔を見ていると、迷っているんだな、というのが伝わってきた。
だから、何もしなかった。セベクを出し抜く、絶好のチャンスではある、と分かっていた。
……だけど。デュースに息つく間もなく無理をさせるのは、俺の本意ではなかったから。
ただ、隣に寄り添い合い、穏やかな沈黙のひとときを過ごせるだけでも幸せだと、ただ目の前にあるその幸福を噛み締めた。
*
翌日。セベクから、ラブレターをもらった。いきなりツカツカ僕に歩み寄ってきて、『受け取れ!!』って手紙だけ押し付けていくから、何かと思ったけど。
中身を読んでみると、こんなことが書いてあった。
『愛……愛する、デュース・スペードへ』
書き出しだけで照れんな!! なんか僕まで照れくさくなるだろ!!
『僕は、お前のことが好きだ! 僕がお前に、気持ちを伝えるために取る手段を選ぶなら、やたらと出てこなくなる言葉よりも、文字を選ぶべきだと思った。だから、この手紙を書いた。僕の気持ちは、あの日、お前が、『ドラコニア先輩の前に出るなら、しゃんとしなきゃな』と笑ってくれたあの日から……お前に、向いている。その、僕の忠義を理解し、そして、受け入れて笑う、貴様の笑顔が、可愛らしいと思って……もっと見たいと、思ったのだ!! だから僕が、お前をこれからもっと笑顔にできるように、隣に置いてくれると、嬉しい。以前、お前は、本を読むのが得意ではないと言っていた。それならば貴様はきっと、文字を読むのも得意でないのだろうから、これくらいにしておく。本当は、もっと長く書くことも出来るのだが、思いの丈を詰め込みすぎて、読まれなくては本末転倒だからな!! 追伸 次に手紙を受け取る日までには少しは本を読んで、もう少し長い文章を読めるようになっておけ! そして僕の想いを受け止めろ!! ――セベク・ジグボルト』
で、それを読み終わった僕の感想は、っていうと。
「な、なんか、話とか言い回しがちょっと難しかったし、いろいろ言われもしたけど……。本気で好きだって思ってくれてるのは、まあ、伝わった、かな……?」
さすがにちょっと、照れくさかった。ちょこちょこセベク節が出てるとはいえ、人生初だったからな、本気のラブレター貰ったのなんて。
*
それから、僕はまた、秘密の場所に来ていた。セベクからラブレターを貰って、それを読んでいた直後までは、照れくさかった。でも、だんだん、気持ちが曇って、集中できなくなっていった。お陰で授業も失敗続きだ。魔法薬学の実験も、爆発するし……。
「駄目だな、僕……。何もかも、ハンパだ……」
体育座りになって落ち込んでいると、ぽん、と頭を撫でられた。
「シルバー、先輩……」
「……どうした、落ち込んでいるのか?」
僕はそっと顔を逸らす。今はあまり、会いたくはなかった。だって、シルバー先輩も、結局は今僕を悩ませているひとりでもあるんだから。嫌なことを言ってしまいそうだった。
でも、シルバー先輩は、優しく僕の頭を撫でて、言った。
「すまない。俺たちのことで、悩ませてしまったみたいだな。お前の邪魔をしたいわけでは、なかったんだ。俺も、アイツも」
「……」
僕は、応えなかった。でも、シルバー先輩は、それを肯定と受け取ったみたいだ。
シルバー先輩は、僕の髪を優しく撫で続けている。
「焦らなくて、いいんだ。デュース。お前が落ち着きたいのなら、この場所では、俺の想いを、忘れたってかまわない。お前の気持ちが、決まるまで、俺たちは……。俺は、いくらでも、待つことができるから」
そうして、シルバー先輩は僕の髪から手を退かした。指先には、どこからか僕の髪に舞い散っていたらしい、桜の花びらが摘ままれていた。
シルバー先輩はそれを手のひらに乗せて、ふっと吹き、風に飛ばす。それがとてもきれいに見えて、僕はその花びらのことを、ずっと、ずっと目で追っていた。
その日の放課後、僕はシルバー先輩とセベクの二人を中庭に呼び出した。二人に、気持ちが決まったと返事をするためだ。
神妙な面持ちで並ぶ二人に、僕はさっそく口を開いた。
「返事、決まった。……だから、聞いてほしい」
二人は、揃って頷いた。同じタイミングで頷くから、本当の兄弟みたいに見えた。
少しほほ笑ましくなって、同時に申し訳なくなったけど、これは僕が決めて、僕が言わなきゃいけないことだ。だから、勇気を絞って言葉を発した。
「まず、セベク。セベクからの気持ちは、ありがたいって思った。こんな僕を好きになってくれて……なんていうか、僕は走るのが好きだから、陸上で例えちまうけど。同じコースで、ちょっと前を走って、時々僕を振り向きながら、引っ張ってくれてる、強い感じがした」
「そうか」
セベクは、ただ一言だけ頷いた。
「それで、シルバー先輩の方は、気が付いたら隣にいるっていうか……。ふと横を見たら、隣で歩調を合わせて、一緒に走ってくれてるって感じがしたんだ」
それで、と僕は言う。二人とも、僕の続く言葉が分かってる気がした。それでも、最後まで待ってくれてて、ああ二人とも、本当に律儀で誠実なんだなって、そう思った。
――ドラコニア先輩は良い臣下を持ってるよな、本当に。
さあ、僕も。二人の誠実さに、ちゃんと向き合おう。審査員なら、決着をつけなきゃな。
「それで、さ。僕が、どっちの方が好きかって、考えたらさ。僕は、誰かと一緒に走るのが好きなんだ」
だから、ごめんな、セベク。僕はシルバー先輩を選ぶよ。
そうハッキリと言い切って、僕は言葉を切り、二人の返事を待った。
先に口を開いたのは、セベクだった。
「ふん。……こうなる気はしていたんだ」
「そ、そう言うなよ、セベク。お前のアピール、良かったと思うぜ。僕がもっとお前にお似合いの女の子なら、あのラブレターとか……きっともっと、ドキドキしたと思う」
「ええい、慰めにもなっていない!!」
セベクは強がって怒る。でも、その目元が涙に溢れそうなのは、気づかないでやった方がいいんだろう。
「貴様の気持ちは、分かった! 現時点では、よく分かった。だから、今日はこれで引いてやる。……だが、僕はこれで諦めるつもりは、毛頭ないからな!!」
そう言って、セベクは踵を返す。その間にも、セベクの口からは『元よりシルバー相手だ、不利な戦いなのは明白だったのだ』とか『作戦の練り直しをせねば』とか、何かいろいろ呟きが零れていた。
そんなセベクの背中を見送ったあとに、ちょっと呆れ顔で口を開いたのはシルバー先輩だった。
「アイツは、去り際も潔くできないのか。まったく、情けない……。……まあ、とはいえ。俺も似たようなことになるかもな、立場が逆であったのならば」
そうして、シルバー先輩は僕に向けてほほ笑んだ。そして、胸の前に手を当て、小さく敬礼をする。
「……改めて、礼を言う。デュース。俺の想いを、受け入れてくれて……俺を選んでくれて、本当に嬉しい。ただ、ひとつ、聞かせてくれないか。何が、お前の中で……俺とセベクを分かつ、決め手になったんだ?」
「それは……」
そのとき、ごう、と風が吹いた。どこか遠くから吹いてきた北風が、僕たちの間に、薄桃色の花びらを運んできた。きっと秘密の場所から、運んできた。たくさん、たくさん、運んできた。僕はそれを、あの日と同じように、じっとただ、見つめていた。
「……僕、先輩が寝てた日、あの場所に行ったことが、あったんです」
「ああ……」
僕たちの秘密の場所のことだと、シルバー先輩はすぐに悟ったようだった。
「でも、先輩、寝てませんでしたよね。ほんとは、途中で起きて……。でも、僕を悩ませないようにって、寝たふりしててくれたんだ」
「……気づいていたのか」
その言葉に、僕は、ああやっぱりそうだったんだと、自分の選択が間違いじゃなかったことを感じる。僕は元々、頭をウンウン言わせて悩むのなんか、得意じゃなかった。得意じゃないことばっかりしたから、疲れてた。そんなときに、そっと寄り添ってくれたシルバー先輩の空気と優しさが、嬉しくて。……素直に、好きだと。この人となら、時々一緒に一休みしながら、どこまでも走っていけるって思ったんだ。
「僕……。まっすぐな気持ちも嬉しいけど、でも。ずっと一緒にいるのなら、そういう……なんていうか、うまく言えないんですけど……。僕のこと考えて、そういうことをしてくれる、シルバー先輩みたいな人がいいって……そう思ったんです」
だから、先輩に決めました。僕が恥ずかしくなって誤魔化すように笑うと、シルバー先輩は、僕に手を伸ばしかけて、そして、やめた。
「先輩?」
「困った。お前に、今、……感情の抑制を、褒められたばかりなのに。今、嬉しすぎて、どうしようもなくて……お前のことを、つい、抱きしめたくなってしまった……」
不甲斐ない、精進せねばと赤くなった顔を片手で隠すシルバー先輩に、僕は、僕も真っ赤になる羽目になった。
「え、っと。僕もまだ、そういうの慣れてないので……。まずは一回だけ、ちょっとだけにしてくださいね……」
するとシルバー先輩は、僕のことをぎゅっと抱きしめた。ぎゅっと強く、抱きしめられて。
僕たちを囲むように吹く冬の風が、季節外れの花びらを運び続けていた。
*おしまい
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